宗教文化ほど尊いものはなく、恐らく、この世から宗教がなくなると人間社会は崩壊するだろう。
会社の経営者が宗教心を持つことは素晴らしいことだが、一方で、会社に宗教を持ち込むと、会社衰退に繋がる様々な弊害を生み出すので注意が必要だ。
この記事では、会社に宗教を持ち込むダメ経営者の事例について、詳しく解説する。
以前、調査に入ったことのある会社での話である。
この会社は創業家一族がオーナー兼経営者の体制で会社を経営していた。
年商は200億円で、創業家一族は、代々、とある宗教の熱心な信者でもあった。
調査に入って驚いたが、本社の地下一階に大きな宗教道場が備えられていて、本社勤務の全社員が日課として毎朝お祈りを捧げていた。
更に調査を進めると、この会社の利益が創業者一族が信仰している宗教団体へお布施として流れていることが判明した。
社員の人事も、宗教に熱心な社員ほど出世していて、いくら能力があっても宗教心(入信の意志)が弱い社員は正当な評価を受けていなかった。
調査に入った時点での会社の経営成績は燦々たるものだった。
年商200億円に対して、営業赤字額が▲5億円、総負債額は80億円である。
創業家一族は連帯保証人なので倒産すれば一家は破滅であったが、経営改善は遅々として進まず、会社を売却するにも負債額が大きすぎて買い手が現れない、という悪循環に陥っていた。
熱心に宗教を信仰して、宗教団体に多額のお布施を払い続けた結果がこの有様である。
信仰を続ければ幸せになれると思ってやってきたことが、結果は全くの逆であり、客観的に見たら幸せではなく、不幸でしかない。
宗教は人を幸せにするために存在している文化だ。
しかし、宗教を誤った方向に持ち込むと、いとも簡単に不幸に陥ってしまう。
会社経営の本質は利益を最大化して、未来永劫、関係者全員の幸せを守るところにある。
会社の利益を度返しして、宗教優先の経営を続ければどうなるか、結果は自ずと見えてくるだろう。
結局、この会社はある大企業に買収された。創業者一族の連帯保証(※1)は外されたが、創業以来守ってきた土地や財産は全て没収された。
会社に宗教を持ち込んでいなければ、違った未来があっただろう。
※1 連帯保証とは、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担する保証。例えば、会社の借金を肩代わりすること
宗教が原因で会社を倒産させない方法は簡単だ。
最初から会社に宗教を持ち込まないこと、これに尽きる。
人間は多種多様な生き物で、宗教文化も人間同様、多種多様な文化がある。
当然ながら、人によって相性の良い宗教、相性の悪い宗教というのは、どうしてもある。
従って、あるひとつの宗教文化を会社に持ち込み、全社員に強制信仰させるという発想自体、間違っている。
宗教は集団ではなく、個人との関係で成立する文化である。
一人が十人、十人が百人というように同じ宗教を信仰する仲間が増えていき、互いに信仰心を高めていく土壌ができるのはとても良いことだが、信仰する仲間を自分が支配する会社の社員に強要するのはお門違いである。
事例で挙げた会社においても、宗教を信仰すること自体は問題ないが、他人を巻きこまずに自分一個の領域と心得て、信仰すれば良かったのだ。
宗教団体へのお布施にしても会社の利益を上納するのではなく、いち個人の報酬の中から上納すれば良いだけのことである。
会社に宗教を持ち込んだ場合の弊害は数知れず、組織力低下や収益力低下など、会社倒産に直結する危険な弊害が数多にある。
会社に宗教を持ち込まなくても会社の関係者を幸せにする方法は沢山ある。
経営とは、企業の永続性を確立する事であり、その実現こそが経営者の本来の仕事です。そのためにすべきことは経営課題を丹念に解消することです。宗教心を持つことは素晴らしいことですが、必ず、会社経営と分離させ、本来の仕事である経営課題の解消を忘れないことが大切です。