会社の規模関係なく、いつの時代も社員の離職は一定数ある。
社会全体の離職率は過去10年間15%前後で推移しているし、新卒離職率(入社3年以内の離職)も過去25年間30%前後で推移している。
終身雇用が無くなり、雇用の流動性が高まったことで離職率が増えているような論調もあるが、じつは離職率は一定水準で推移しているのだ。
一方で、会社という居場所に対する認識は年々変化している。
転職が当たり前になっていることからも分かる通り、会社は終の棲家からキャリア形成の一つの場所と考える風潮が強まっている。
このような背景の中で離職を防ぐには、社員に対して「不安」と「不満」の感情を抱かせないことが重要になる。
社員が不安を抱くと、会社に居ても無駄と考えるようになり、離職のリスクが高まる。
社員の不満が溜まると、会社に言っても無駄と考えるようになり、無気力、指示待ち社員の増殖と共に、離職のリスクが高まる。
社員の不安と不満を解消する手立ては色々とあるが、例えば、
社員の不安を解消するには、自分のキャリア上昇が実感できる仕組みやキャリアの目標となり得る社内外で活躍できる上司を増やすことが必要だ。(この会社に居ればキャリア形成に役立つと思わせることが重要)
社員の不満を解消するには、社員のキャリアが活かせる適材適所や育成方針の打ちだし、意見を言い合える組織風土の醸成が必要だ。(この会社に居れば自分のキャリアが活かせると思わせることが重要)
離職を防ぐ施策に重きを置くのではなく、シンプルに社会で広く活躍できる人財を育てる施策や仕組みをたくさん定着させることが重要ということだ。
離職率が低下すると、社員一人ひとりのマンパワーが組織に還元され、事業活動のパフォーマンスが上がる。
また、新人、中堅、幹部と、組織のどの階層にもレベルの高い人財が配置でき、社員育成の効率、ひいては、事業活動の効率も高まる。
社員の離職を防ぐには、組織から不安と不満を取り除くことが不可欠になるが、もう一つ、コレクティブ・エフィカシーを定着させることも重要になる。
コレクティブ・エフィカシーとは、ある集団で目標を達成するのに必要な一連の行動をコントロールし実行する能力があるという共有された信念のことだ。
簡単に言えば、
「自分ひとりではできないけど、この人達と一緒ならできそう。」
「あの人もこの人もいるからきっと乗り越えられる、きっとチャレンジできる。」
と思わせる雰囲気、あるいは、社内の誰かと一緒に行動することで、より多くを学ぶことができると思わせる企業風土のことだ。
コレクティブ・エフィカシーは主に児童教育の現場で活用されている概念だが、昨今は会社の人財育成の現場においても活用されている。
自走オンリーで社員を育てるのではなく、子供を育てるが如く、伴走と自走を繰り返しながら丁寧に育てることが、新人-中堅-幹部社員をバランスよく育てる秘訣であり、組織力強化の肝になる、ということだ。
世界人口のピークアウトが迫っていることを考えると、ビジネスにとっての希少資源は、資本(カネ)や設備(モノ)等からヒトにどんどんシフトする。
そういう意味でも、離職率を引き下げる企業努力や創意工夫は、厳しい競争社会を生き抜く上で今後ますます重要になるだろう。
(この記事は2025年4月に執筆掲載しました)
ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」
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