分かりやすい減価償却の説明
中小企業の経営者にとって、減価償却ほどややこしく、分かりづらい会計制度はないのではないかと思う。
事実、わたしも会計知識を習得するまでは、減価償却はチンプンカンプンだった。
減価償却とは、資産性の高い設備等(減価償却資産)を耐用年数に応じて費用化していく制度のことである。
減価償却の対象資産や耐用年数などは税法で全て取り決めされているが、難しい理論や決め事はひとまず置いておいて、この記事では減価償却の仕組みを理解することに焦点を絞って解説を進めていきたいと思う。
減価償却の仕組みは「会計の仕組み」と「費用の仕組み」を理解すると見えてくる。
この二つの仕組みさえ分かれば、減価償却の仕組みが深く理解できるはずだ。
順を追って、減価償却制度の基本を支えているふたつの仕組みを解説していく。
会計の仕組みを理解する
会社の会計には、絶対的なルールがある。
それは、会計期間である。
会計期間は創業期を除いて、1年間と定められている。
なぜ、3年や10年ではダメなのか?
それは、1年間という会計期間ごとに会社の税金が確定しないと、国の予算管理に支障をきたすからだ。
会社の税金は、国の収入になる。
国にも会社同様に1年間の会計期間があり、会計期間に合わせて予算を作成し、予算を消化するという仕組みがある。
当然ながら、収入(税収)が確定しないと、予算自体が実効性の低いものになってしまう。
国の予算管理に合わせるために、会社の会計期間が1年間と決まっているわけだ。
この会計期間が1年であるというルールが、減価償却を理解するうえで重要なポイントになる。
費用の仕組みを理解する
会計期間に続いて、費用の仕組みを解説しよう。
先に説明した通り、会社は1年間という会計期間ごとに税金が確定する。
中小企業の税金の計算方法は、難しくない。シンプルである。
会社の税金は、利益に対して課税される。
つまり、利益が0円であれば、原則、税金(均等割りや消費税除く)は発生しない。
会社の利益は、会社の売上から費用を減じた金額になる。
費用とは経費のことだ。
当然ながら、会社の売上には関係のない、経営者の生活費や社員の服飾費や娯楽費までも費用化して、課税の対象になる会社の利益を減額する事は認められていない。
このような会計操作は、脱税に当たり、重い罰則を課せられることになる。
売上に対応する費用だけが経費として認められる、ということが会計の大原則なのだ。
この売上に対応する費用だけが経費化されるというルールが、減価償却を理解するうえで重要なポイントになる。
減価償却の仕組みを理解する
会計期間が1年間と決まっている。
売上に対応する費用のみが経費として認められる。
この二つが理解できれば、減価償却の仕組みを理解する下地がほぼ整う。
減価償却の対象となる資産は、資産性の高いものに限定されている。
例えば、文房具やコピー紙のような1年以内に消費される消費財、何年利用しても一切価値が目減りしない土地などは、減価償却の対象資産にはならない。
3年経過しても会社の売上に貢献する機械、20年経過してもガタが来ない建物など、1年間という会計期間に収まらずに長期間にわたって会社の売上に貢献する資産が、減価償却の対象資産になるのだ。
ここで簡単な例を挙げよう。
3年間分の売上に貢献する機械を300万円で購入したとする。
この製造ラインの年間の売上は1,000万円、機械費用以外の年間一般経費は800万円とする。
まずは、減価償却を加味しない会計処理の例である。
1年目:売上1,000万円-(一般経費800万円+機械経費300万円)=▲100万円の損失 |
2年目:売上1,000万円-一般経費800万円のみ=200万円の利益 |
3年目:売上1,000万円-一般経費800万円のみ=200万円の利益 |
次に、減価償却を加味した会計処理の例である。
機械費用300万円は売上に対応する3年間にわたって減価償却費として費用化する。
1年目:売上1,000万円-(一般経費800万円+減価償却費100万円)=100万円の利益 |
2年目:売上1,000万円-(一般経費800万円+減価償却費100万円)=100万円の利益 |
3年目:売上1,000万円-(一般経費800万円+減価償却費100万円)=100万円の利益 |
いかがだろうか?
減価償却の有り無しによって、それぞれの会計期間内の利益金額に違いが生じることが分かったと思う。
また、売上に対応していない経費計上を認めると、適正な利益計算ができないということも分かったと思う。
減価償却資産を耐用年数に応じて費用化する理由はここにある。
そして、この仕組みこそが、減価償却の基本である。


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