投資回収期間の適正水準と計算方法|投資シミュレーションに用いる経営指標

投資回収期間の適正水準と計算方法

 

投資回収期間とは、投資の成否を判定する経営指標の一つだ。

 

会社経営において投資は回収して初めて成功するので、投資回収を測定する「投資回収期間」は極めて重要な指標になる。

 

この記事では、投資回収期間の適正水準と計算方法、並びに、投資回収の考え方から投資シミュレーションの考え方に至るまで、詳しく解説する。

 

 

投資の成功は資金回収で決まる

投資回収期間の適正水準と計算方法

 

投資は会社経営の至るところに関わってくる。

 

投資の範囲は設備増設や商品開発だけに止まらない。人材採用、社員教育、広告展開、試験研究、など等、中小企業の投資分野は多岐にわたる。

 

投資は、会社の成長を後押しするので、なくてはならないものだが、投資の成功は資金回収で決まる。

 

例えば、投資した途端に会社が衰退する、或いは、多角化投資が失敗して会社が衰退する失敗ケースは、資金回収がとん挫することで発生する。

 

つまり、投資の成功は、投資した資金を回収することが絶対条件になる。

 

会社の成長を促進するために先行して投じた資金を回収しなければ、投資の意味はなく、むしろ、資金回収のできない投資は会社衰退の原因にしかならない。

 

資金回収がおぼつかない過大投資や杜撰な投資計画は、経営の失敗リスクを飛躍的に高める。投資を成功に導くには、投資計画の妥当性を徹底的に検証し、なお且つ、投資した資金を一定の期間で回収することが欠かせないのだ。

 

 

投資の成否を判定する「投資回収期間」とは?

 

投資の成否を判定する経営指標を「投資回収期間」という。

 

投資回収期間とは、読んで字のごとく、投資資金の回収期間(年数)のことである。

 

投資回収期間は、その投資が将来会社に役立つか否かを判定するうえで有効に使える経営指標になる。

 

例えば、投資の回収期間が分かれば、その投資が、将来どの時点から会社に利益を生み出すのかが分かる。また、投資の回収期間が分かれば、会社全体の利益を棄損する危険な投資を未然に防ぐこともできる。

 

投資で失敗しないためには投資回収期間を意識した投資計画の策定が大切になる。

 

 

投資回収期間の適正水準

 

投資回収期間の適正水準について、詳しく解説する。

 

中小企業の投資回収期間の適正水準は2年以内、できれば1年以内がベストである。

 

ひと昔前は3年~5年という判断もあったが、昨今は経済環境の変化が目まぐるしく、長期スパンで投資事業の妥当性を判定することが難しくなってきている。

 

加えて、資本力に乏しい中小企業の場合、万が一、投資回収期間が長期化すると、会社の体力消耗(資本取崩し)が加速し、経営破たんのリスクが一段と高まる。

 

投資回収期間は、極力、短期間の方が、失敗リスクが少なく済む。

 

従って、投資回収期間が2年超かかる投資は見送った方がよく、他にも用途未定の土地建物への投資、将来値上がりが期待できる資源や株式への投資なども、手を出すべきではない。

 

因みに、数十億単位の大型事業等の投資の場合は、投資回収期間2年以内での回収ができない。この場合は、当該投資に関連する返済も含めた事業活動のフリーキャッシュフロー1~2年以内にプラス化することが一つの適正基準になる。

 

 

投資回収期間の計算方法

 

投資回収期間の計算方法について、詳しく解説する。

 

投資回収期間は、投資総額を投資対象の年間予測収益で割ることで計算できる。

 

例えば、投資総額が1,000万円で年間予測収益が500万円であれば、1,000万円÷500万円=2年が、投資回収期間ということになる。

 

なお、年間予測収益は投資の種類によって計算方法が変わる。

 

例えば、設備投資などの場合は、設備投資をすることで削減される経費、或いは、増加する収益が年間予測収益になる。

 

新規事業や商品開発などの場合は、その商品が販売されることで得られる貢献利益が年間予測収益になる。

 

 

投資回収期間の計算に用いる貢献利益とは?

 

貢献利益とは、読んで字のごとく、会社に貢献する利益のことだ。

 

貢献利益の予測は、投資回収期間を計算するうえで最も重要な作業になる。

 

なぜなら、貢献利益の予測がいい加減だと、投資回収期間の計算もいい加減になるからだ。貢献利益の予測精度が、投資回収期間の精度を決めるといっても過言ではない。

 

なお、新規事業と新商品の貢献利益の計算方法は概ね下表の通りである。

 

新規事業の貢献利益の計算

売上

新規事業の予測売上を計算する

 売上原価

新規事業の予測売上原価を計算する

売上総利益

新規事業の売上総利益を計算する(売上-売上原価)

 直接経費

新規事業に関わる予測直接経費を集計する。(新規事業単体の貢献利益を計算するうえで最も大事なのは直接経費の集計である。責任者の人件費や家賃等の固定費、水道光熱費等の変動費まで、新規事業に関わっている全ての直接経費を集計する)

貢献利益

新規事業の予測貢献利益を計算する(売上総利益-直接経費)

 

新商品の貢献利益の計算

売上

新商品の予測売上を計算する

 売上原価

新商品の売上原価を計算する

売上総利益

新商品の売上総利益を計算する(売上-売上原価)

 直接経費

新商品に関わる予測直接経費を集計する。(新商品を販売するうえで必ず要する直接経費を全て集計する)

貢献利益

新商品の貢献利益を算定する(売上総利益-直接経費)

 

投資回収シミュレーションの考え方

 

投資回収シミュレーションの結果判定の考え方は難しくない。

 

投資した資金を予定期間内で回収できれば、想定利益のリターンが獲得できた、つまり、投資が成功したということになる。

 

当然ながら、投資した資金を予定期間内で回収することができなければ、想定利益は獲得できず、会社の損失が雪だるま式に増えていくことになる。

 

投資回収の見誤りは、会社倒産に繋がる要因にもなり得るので、決して甘く見てはいけない。

 

従って、投資シミュレーション表を事前に作成し、想定利益(貢献利益)が計画通り推移しているか否かを、適宜モニタリングすることを忘れてはならない。

 

 

大型設備投資の投資シミュレーション

 

大型設備投資(減価償却資産に該当・新規店舗など)の投資シミュレーションは、設備投資前後の売上総利益高営業利益率を比較することで、投資回収が良好に推移しているか否かを判定することができる。

 

売上総利益高営業利益率=(営業利益÷売上総利益)×100

 

例えば、売上総利益高営業利益率が設備投資前と同じ水準以上であれば、投資回収が計画通りに進んでいると判断できる。

 

売上総利益高営業利益率が設備投資前よりも悪化している場合は、投資回収が計画通りに進んでいないと判断できる。

 

設備投資後に売上総利益高営業利益率がマイナス(赤字経営)に転落している場合は、設備投資分の減価償却費用が十分に賄えていないということになるので、投資が失敗に陥ってるということが分かる。

 

なお、投資回収が不十分、或いは、投資が失敗に陥っていることが判明した場合は、早急に事業撤退の検討をしなければならない。

 

投資回収が計画通りに推移することは稀だ。

 

緻密な投資計画の運用と投資回収期間のモニタリングが、投資を成功に導く秘訣になる。

 

伊藤のワンポイント
 

投資なくして成長なし、つまり、成長投資は会社経営の肝です。成長投資の正否は、投資回収の出来不出来で決まります。確実な成長を遂げている企業ほど、投資回収の基準がシビアで、投資回収の失敗対応(撤退)も迅速です。投資回収期間は、資金調達手段に限りのある中小企業ほど、注視すべき指標です。