借入限度額の計算方法と適正水準(目安)|法人の借入危険度を計る経営指標

借入限度額の計算方法と適正水準(目安)|借入危険度を計る経営指標

 

借入限度額とは、借入をする際に金融機関等から設定される、或いは、借金過多を防衛するために自己設定する借入金の限度額のことである。

 

金融機関から設定される借入限度額の計算方法は、定形計算式で決まるビジネスローンや事業ローンと非定形計算式で決まる法人融資の二種類ある。

 

借入金を調達する側の会社が借金過多を防衛するために自己設定する借入限度額の計算方法は、月商倍率で計算する方法が一般的だ。

 

この記事では、借入金を調達する側の会社が借金過多を防衛するために自己設定する借入限度額の計算方法と借入限度額の適正水準について、詳しく解説する。

 

 

借入限度額は借入危険度を計る経営指標

 

借入限度額は、借金過多の防衛に役立つ重要な経営指標になる。

 

自分の会社に適した借入限度額が分かると、返済計画の破綻リスクや借金過多による返済苦のリスクを減らせるので、自己防衛のために積極的に有効活用したい経営指標である。

 

例えば、上場企業に比べて資金の調達方法に限りのある中小企業にとって、最も一般的な資金調達方法は銀行借入になる。

 

銀行借入は中小企業の成長を後押しするメリットがある一方で、借入金の返済が会社の支払余力を超えた途端に返済苦に陥るリスクがあり、場合によっては、資金繰り難から経営が傾くこともある。

 

借入金で経営に失敗しないためには、自己防衛のために、事前に会社の借入限度額を設定し、その範囲内で借入金をコントロールする姿勢が大切になる。

 

 

借入限度額の計算方法(月商倍率)

 

借入限度額を月商倍率で計算する方法について、解説する。

 

借入限度額を月商倍率で計算する場合は、業種業態によって範囲が広がるが、大よそ月商の1~5ヵ月が目安といわれている。

 

借入限度額の計算式(月商倍率)

月商倍率の借入限度額計算式=(年商÷12ヵ月)×1~5ヵ月

 

次の金額は、わたしが過去に会社再建で調査に入った年商50億円程度の中小企業の借入金の残高である。

 

A社:8億円

 

B社:10億円

 

C社:12億円

 

月商倍率で借入限度額を計算すると、(50億円÷12ヵ月)×1~5ヵ月=4億円~20億円となる。

 

A社、B社、C社、何れも適正な借入限度額の範囲内に収まっているので、借入金の残高に問題なし、ということになる。

 

 

借入限度額を誤ると倒産リスクが高まる!!

 

借入限度額を月商倍率で計算する場合、ひとつ注意点がある。

 

それは、銀行借入は必ず返済しなければならないということだ。

 

借入金を返済するには、借入金の返済原資となる利益を出すために黒字経営を継続しなければならない。

 

もし万が一、赤字経営に転落するとどうなるだろうか?

 

言うまでもなく、借入金の返済原資である利益がなくなるので、たちまち返済が滞ってしまう...。

 

前章で解説した借入限度額を月商倍率で計算した結果、問題なしと判定した3社は、実は何れも赤字経営の会社だった。

 

次の金額は、年間赤字金額の実態である。

 

A社:経常利益▲8千万円

 

B社:経常利益▲7千万円

 

C社:経常利益▲2千万円

 

借入限度額を月商倍率で計算すると「適正判定」という結果が出たが、経常利益が赤字であれば、返済原資がないので、借入金の返済に支障が出る。

 

借入金の返済が滞ると、場合によっては債務不履行で会社が倒産することもある。

 

このように、月商倍率で借入限度額を計算すると、返済能力の実態を見誤り、銀行借入がきっかけで会社の衰退リスクが飛躍的に高まることがある。

 

 

借入限度額の計算方法(収益ベース)

 

月商倍率で借入限度額を計算すると、返済能力の実態を見誤り、借入限度額の判断を誤る。

 

従って、借入限度額は、返済能力の確実性と安全性が高い収益ベース、つまり、会社の経常利益をベースに計算する方法がお薦めだ。

 

借入限度額の計算式(収益ベース)

借入限度額=過去3年分の経常利益の平均×50%×”5~10”

 

例えば、過去3年分の経常利益の平均が1,000万円であれば、1,000万円×50%×”5~10”=「借入限度額2,500万円~5,000万円」ということになる。(減価償却費がある場合はその金額を借入限度額に加算する

 

”5~10”と係数に幅があるのは、会社の経常利益が拡大中なのか、或いは、縮小中なのかによって、係数を使い分けるためである。

 

年商に関係なく、会社の収益性から借入限度額を計算するので、返済能力の安全性が担保された借入限度額が分かる。

 

この方法で借入限度額を計算すると、借金過多に陥るリスク、或いは、借入金の返済苦に陥るリスクが殆どなくなる

 

借入限度額を見誤り、多額の借入金を抱えてしまい、返済に苦しんでいる中小企業は少なくない。

 

もしも、既に借入限度額を超過している中小企業は、なるべく追加の銀行借入を行わずに、経営健全化を推進することをお薦めする。

 

 

借入限度額を会社経営に活かすポイント

 

稀に「銀行借入=悪い経営」という論調を見かけるが、銀行借入中心に資金調達を行い会社を成長発展させることは決して悪いことではない

 

例えば、銀行借入を積極活用した方が資金効率と投資効率が高まるので、会社の成長スピードは間違いなく加速する。

 

ただし、銀行からの借入限度額を見誤ると、借入がきっかけで会社が衰退することがあるので注意しなければならない。

 

お金を借りることは、同時に、お金を返すことでもある。そして、借入返済の原資は会社の売上(収入)ではなく、利益(収益)になる。

 

借入金を元手にした成長投資が売上と利益を押し上げれば問題ないが、期待に反して売上と利益が増えないことは珍しいことではない。

 

借入の失敗リスクを抑えるには、借入限度額を、常に経常利益ベースで計算し、なお且つ、借入限度額を絶えずモニタリングすることが大切だ。

 

然るべき借入限度額をモニタリングしていれば、次のような借入コントロールが容易にできる。

 

☑経常利益が増加したら借入枠を拡大して成長投資を拡大する

 

☑経常利益が縮小したら借入を停止して利益拡大の経営改革を断行する

 

常に経常利益を基準に借入限度額を判定している限り、借入で失敗することも、返済に苦しむこともないのだ。

 

伊藤のワンポイント
 

借入限度額の見誤りから返済苦に苦しむ中小企業は少なくありません。返済の失敗リスクを小さくするには、利益ベースで借入限度額を計算することと、常に一定の利益水準をキープすることです。資金調達の手段に限りのある中小企業は借入限度額をシビアに管理しないと、借入投資の小さな失敗がきっかけで、会社が衰退します。