三代目社長の宿命と中小企業の事業承継の課題|会社は三代目が潰す!!

中小企業の事業承継の課題と三代目社長の宿命

 

「長者三代続かず」とは、お金持ちは三代目で破産するということわざである。

 

会社経営も同様、創業者から数えて三代目で事業承継が失敗に終わり、会社を潰す例が多い。

 

この記事では、三代目社長の宿命と中小企業の事業承継の課題、並びに、創業者と二代目社長の特徴に至るまで、詳しく解説する。

 

 

中小企業は三代目で会社を潰す例が多い

 

中小企業は、三代目社長で事業承継が失敗に終わる確率が非常に高い。

 

下のグラフは、わたしが過去に会社再建に関わった中小企業の代表者の代数を表したものである。

 

 

ご覧の通り、中小企業が倒産の危機を迎えるのは、三代目社長が6割と、最も多い傾向にある。

 

二代目と三代目社長を足すと9割を超えている。

 

中小企業の事業承継が如何に難易度の高いものか、このことからも理解できると思う。

 

それでは一体なぜ、二代目や三代目社長で事業承継が失敗に終わり、会社が倒産の危機に瀕してしまうのか。

 

じつは上のグラフの中小企業は、全て一つの決まった法則で事業承継が行われていた。

 

それは、「血縁関係のある親子間の事業承継」だ。

 

ここに、中小企業の事業承継の課題が、すべて集約されているといっても過言ではない。

 

 

中小企業の事業承継最大の課題とは?

 

中小企業の事業承継最大の課題は、血縁関係のある親子間の事業承継をいかに成功させるかに集約されるが、会社経営は親子間で承継できるほど簡単ではない

 

経営者の必須スキルやマインドは、実際に社長の立場にならないと身につかないものが山ほどあるからだ。

 

例えば、経営者の自覚や覚悟、失敗体験や成功体験、バランス感覚や責任感などは、実際に経営者の立場で経験しないと、なかなか体得できるものではない。

 

会社をいちから創業して二代目社長に事業を承継させるほどに会社を成長させた創業者にはプロレベルの経営能力が身についているが、創業者ほど経営者としての経験(実体験)がない二代目や三代目社長は経営のプロではない。

 

当然ながら、後継者に十分な経営能力が身に付いていなければ、事業承継をきっかけに会社が衰退することもあり得る。

 

血縁関係のある親子間の事業承継最大の課題は、ここにある。

 

 

プロ意識のない事業承継は成功しない!!

 

中小企業の事業承継を成功させるには、親子共にプロ意識を持って事業承継に臨む覚悟が不可欠になる。

 

しかし、親子共に、なかなかプロ意識を持てないのが実態である。

 

繰り返すが、後継者に十分な経営能力が身に付いていなければ、中小企業の事業承継は失敗する。

 

冷静に考えてほしい。

 

創業者は、全てが初体験で手探りのなかで会社を興し、失敗と成功を繰り返しながら事業を成長させている。

 

その苦労は計り知れず、実際に、創業者の血のにじむような苦労と経験は想像を絶することが往々にしてある。

 

言ってみれば、創業者は経営のプロである。

 

一方、二代目や三代目社長はどうだろうか?

 

中小企業といえども、経営能力が十分に身に付いていない人間に、経営者が務まるほど社長業は甘くはない。

 

事業承継を成功させるには、親子双方がプロ意識を持って経営者教育に向き合うことが欠かせない。

 

当然ながら、双方の何れかに甘さがあると、経営者教育に失敗し、事業承継が失敗に終わる。

 

 

プロの世界は厳しさに満ちている!!!

 

会社経営とは別の分野の「プロの世界」に目を移してみる。

 

平成の大横綱といわれた第65代横綱の元貴乃花(1972-)は中学卒業と同時に藤島部屋に入門した。

 

藤島部屋の親方は、元貴乃花の実の父親である、元大関の貴ノ花(1950-2005)だった。

 

このふたりは血縁関係のある親子にも拘わらず、入門と同時に親子の縁を切り、親方(師匠)-弟子の関係に改めてお互いにプロの土俵に上がった。

 

元貴乃花は厳しい稽古と精進を積んで、入門から7年後に横綱に昇進し、その後9年間にわたり横綱の地位を守り続けた。

 

父親自ら、わが子との親子の縁を切ってプロの世界を教え込むことは、とても辛い決断と経験だと思うが、親子の縁を切って師匠と弟子の関係になることは、プロの世界では珍しいことではない。

 

むしろ、それくらいの覚悟が双方になければ、プロの世界で成功することは難しいだろう。

 

 

中小企業の事業承継の成功パターン

 

親子間での経営者教育が不十分な状態で事業承継した二代目や三代目社長であっても、会社経営(事業承継)に成功することがある。

 

しかし、その殆どは、次のパターンに該当している。

 

☑血縁関係になく、しがらみがなかった

 

☑後継者を取り巻く番頭さんが有能だった

 

☑中小企業の会社経営の経験を積んでいた

 

☑芳しくない経営状態から会社を再建させた

 

☑後継者が事業承継に備えて、事前に経営能力を高めていた

 

など等の背景が二代目や三代目社長にあれば、事業承継が成功する確率は高まる。

 

ちなみに、この中で最も短期間でプロフェッショナルな経営能力が身につく背景は「芳しくない経営状況を再建させること」だ。

 

なぜなら、会社を再建させるということは、後継者が一切の甘えが許されない状況で、血のにじむような苦労と経験を乗り越える、ということだからだ。

 

この手の事業承継を成功させた二代目、三代目社長は、間違いなく尊敬に値する努力をしている。

 

【関連記事】中小企業の経営改善事例・成功のポイント

 

 

二代目社長と三代目社長の違いとは?

 

中小企業の事業承継失敗率が最も高い三代目社長の特徴を解説する前に、二代目社長の特徴を解説する。

 

二代目社長は創業者の背中を見て育っているので、創業者と似通った経営の勘が身についている。

 

親の苦労も理解しているので、自分自身も必死で会社経営を行おうと人並以上の努力をいとわないのも二代目の特徴である。

 

また、親を超えてやろうという野心旺盛なタイプも多いので、よほど経営判断を誤らない限り、会社を倒産させることはない。

 

三代目社長より経営者の勘が鋭く、なお且つ、向上心が旺盛というのが一般的な二代目社長の特徴になる。

 

 

事業承継に失敗する三代目社長の特徴

 

最後に、中小企業の事業承継に失敗しがちな三代目社長の特徴を解説する。

 

事業承継に失敗する三代目社長は、創業者と二代目から極端に甘やかされるケースが多い。

 

例えば、二代目は「親も自分も苦労してきた、せめて子供には苦労させたくない」という想いで、三代目社長が生まれた時から過度に苦労を掛けさせまいと育ててしまう。

 

創業者からみたら三代目社長は孫なので、二代目以上に三代目を可愛がり、一切の苦労をかけさせない。

 

また創業者や二代目が自分の学歴や経歴に引け目を感じている場合は、三代目社長の教育に力を入れて良い大学に入れようと必死になる。

 

創業者が貧乏から出発している場合は、お金の苦労を掛けさせまいと多額のお小遣いを平気で与えたりもする。

 

三代目社長は一切の苦労を知らずに晴れて良い大学を出て、大企業に入社し、10年ほどで家業を継ぎに戻ってくることが多い。

 

問題はここからだ。

 

経営者の必須スキルとマインドは、大学でも大企業でも教えてくれない

 

引き継いだ会社は創業者から二代目へ順調にバトンが引き継がれて良好な経営を維持していることが殆どである。

 

従って、三代目社長が会社経営の失敗を経験する機会、或いは、重要な経営判断を迫られる機会は殆どない。

 

つまり、経営者の必須スキルとマインドを磨く機会が、創業者や二代目に比べて極端に少ないのだ。

 

事実、わたしが過去に接した倒産の危機に瀕した中小企業の三代目社長の経営能力は散々たるものだった。

 

こうして三代目社長は経営者としての能力を十分に磨かないまま会社を承継し、社長の座に就くことになる。

 

手元に豊富な現金が残っている場合は、さして深く考えずに新規事業に投資したり、放蕩経営(※1)を行いやすい環境になっているので、三代目社長が自分の能力を過信して調子づくと、いとも簡単に会社は倒産する。

 

※1 放蕩経営とは、自分の思うままに振る舞うこと。やるべきことをやらず、飲酒や遊びにうつつをぬかすこと

 

 

三代目社長が事業承継を成功させるには?

 

三代目社長が事業承継を成功させるには「真摯に経営の勉強に取り組むこと」に尽きる。

 

なぜなら、経営者の必須スキルとマインドは、努力次第でいかようにも身につけることができるからだ。

 

わたしは、経営コンサル会社を創業してまもない頃に、とある業界団体の要請で若手経営者向けの経営セミナー講師の一員を務めた経験がある。

 

セミナーには、北は北海道から南は沖縄まで、ヤル気のある後継者がこぞって集まっていたが、その参加者の実に七割超が三代目社長だった。

 

赤字経営や売上減少に苦しんでいる三代目社長も沢山いたが、全員、前向きな姿勢でひたむきに経営の勉強に取り組んでいた。

 

できる三代目社長ほど熱心に勉強していたし、全員が、独学というあやふやな世界ではなく、専門家の元でプロ経営者のスキルを学ぼうとする良いセンスを持っていた。

 

三代目社長は、本業のビジネスモデルが陳腐化する過渡期に経営をバトンタッチすることが多いので、苦労も沢山あると思うが、意識的に経営の勉強に取り組むことで明るい未来を切り開くことができる。

 

つまり、ピンチもチャンスも自分次第ということだ。

 

伊藤のワンポイント
 

私の経験上、三代目が会社を潰すは本当です。経営能力が低い三代目が会社を潰す事例の他にも、ビジネスモデルの陳腐化に伴い倒産する事例も多いです。つまり、先代の怠慢経営のせいで業績悪化に苦しんでいる三代目社長も沢山います。円滑な事業承継を実現するには、次世代を見据えた会社経営を意識することが大切です。