中小企業の事業再生事例4(年商35億円)

中小企業の事業再生事例4(年商35億円)

 

本事業再生事例は、「年商35億円、営業利益▲1千万円、借金残債8億円」の中小企業のケースです。

 

資金調達力に乏しい中小・中堅企業の事業再建は大きな痛みを伴うケースが多いので、危機的状況に陥る前に、日頃から然るべき手を打って安定経営を実現することが大切です。

 

事業再生事例ほど成功のヒントを得られる教材はありません。以下の事業再生事例から何かを学び取り、反面教師として経営に活かしてください。

 

 

事業再生調査時の経営状況

中小企業の事業再生事例4(年商35億円)

 

事業再生調査時の業績状況と調査内容は下記の通りです。

 

事業再生調査時の業績状況

売上高

3,500,000

 下降傾向

 売上原価

2,650,000

 売上原価率75.7%

売上総利益

850,000

 売上総利益率24.3%

 販売管理費

860,000

 売上高経費率24.6%

営業利益

▲10,000

 売上高営業利益率▲0.3%

借入金残高

800,000

 借入限度超過

(金額単位:千円)

 

事業再生調査内容

経営診断

【経営資料から分析】

資産状況の適正診断、損益状況の適正診断、経営上の問題点、資産状況の問題点、損益状況の問題点、会計上の問題点、税金対策について、業績改善のための具体的改善策の提示、改善スケジュール案と改善効果提示、等々

内部調査

【現地調査と社員面談実施】

会社経営に関わるあらゆる面の調査・判定・リスク評価等々(経営、販売、営業、組織、開発、設備、人事、物流、生産、社員、等々)

事業再生計画作成

【経営診断と内部調査結果を元に再生計画作成】

事業再生3ヵ年計画書、キャッシュフロー表(資金繰り表)、予算管理表、等々

 

事業再生調査で判明した経営課題

 

事業再生調査で判明した主な経営課題(解決すべき問題点)、並びに、事業再生1年後の損益状況と主な事業再生手法は下記の通りです。

 

事業再生で解決すべき経営課題

経営面の課題

経営者の経営方針が不明。経営者が経営悪化に対処できていない。精神論一辺倒で合理性がない。経営者がワンマンで進言できる社員がひとりもいない。過去の成功体験を引きずっている。中間管理職の能力が低い。ぬるま湯体質になっている。等々

 

組織面の課題

経営者から末端社員までの一体感がない。命令系統がない。自分の上司が分らない。情報が末端まで届かない。縦割り主義のため部門間の情報交換や協力がない。現場の声を無視している。社員が自由に意見を言えない雰囲気がある。社内ルールを破ってもお咎めがない。等々

 

販売営業面の課題

お客様に対する態度が悪い。挨拶ができていない。お客様の声、女性社員の声が無視されている。販売方針や営業方針がコロコロ変わる。場当たり的な決定が多い。商品、サービスの開発戦略を下請け任せにしている。不良品と分かっていながら販売している。等々

 

人事面の課題

社員教育ができていない。社員の能力開発ができていない。無能な管理職がいる。経営者の身内が優遇されている。優秀な人材やベテランが大量に離職している。不当な左遷人事がある。男尊女卑の人事評価をしている。等々

 

事業再生1年後の損益状況

売上高

2,800,000

 売上原価

2,100,000

 売上原価率75%

売上総利益

700,000

 売上総利益率25%

 販売管理費

680,000

 売上高経費率24.3%

営業利益

20,000

 売上高営業利益率0.7%

(金額単位:千円)

 

主な事業再生手法

経営者教育、後継者育成・教育、不採算事業からの撤退、不良債権の整理、組織改編、管理会計の導入、経営情報の開示、キャッシュフロー表の作成、資金繰り表の作成、予算管理の導入、3ヵ年の事業計画作成、不採算商品・サービスの収益改善、経営改善の推進、等々

 

 

伊藤のワンポイント
 

事業再生対象企業の経営者は、同じ業界の大手企業に就職し、数年勤めた後に創業者(親)から社長の座を受け継いだ二代目社長でした。

 

事業再生調査の2年前に社長業を継いでいて、それ以来、赤字経営に苦しんでいました。

 

赤字経営の原因は創業者が進めた新規事業で、新規事業の開始時期は、事業再生調査の2年前、ちょうど経営者の世代交代が行われた時期と同じでした。

 

新規事業の赤字額は天文学的なマイナス金額にまで膨らんでいて、現経営陣が試行錯誤をしてもなかなか改善できずにいる状態でした。

 

この会社は、新規事業を始める前までは健全な黒字経営でしたが、新規事業失敗のあおりを受け、あっという間に本業の利益が無くなり、会社全体が赤字経営に転落、更に赤字経営の悪影響が各所に伝染し始め、本来、調子の良かった事業までも低迷を始めていました。

 

事業経営において赤字の連鎖ほど怖いものはないと、つくづく感じた案件でもありました。

 

事業再生は新規事業の閉鎖を最優先に進めると同時に、売上から利益中心への経営転換、組織改編、選択と集中、コスト意識の徹底など等の経営改革を断行していきました。

 

事業再生の結果、わずか1年で、年間3千万円の利益改善を達成することができました。また、事業再生の過程で導入した管理会計は、経営者の会社の数字に対する意識変革に非常に役立ちました。