中小企業の事業再生事例8(200億円)

中小企業の事業再生事例8(200億円)

 

本事業再生事例は、「年商200億円、営業利益▲10億円、借金残債70億円」の中堅企業のケースです。

 

資金調達力に乏しい中小・中堅企業の事業再建は大きな痛みを伴うケースが多いので、危機的状況に陥る前に、日頃から然るべき手を打って安定経営を実現することが大切です。

 

事業再生事例ほど成功のヒントを得られる教材はありません。以下の事業再生事例から何かを学び取り、反面教師として経営に活かしてください。

 

 

事業再生調査時の経営状況

中小企業の事業再生事例8(200億円)

 

事業再生調査時の業績状況と調査内容は下記の通りです。

 

事業再生調査時の業績状況

売上高

20,000,000

 下降傾向

 売上原価

13,000,000

 売上原価率65%

売上総利益

7,000,000

 売上総利益率35%

 販売管理費

8,000,000

 売上高経費率40%

営業利益

▲1,000,000

 売上高営業利益率▲5%

借入金残高

7,000,000

(金額単位:千円)

 

事業再生調査内容

経営診断

【経営資料から分析】

資産状況の適正診断、損益状況の適正診断、経営上の問題点、資産状況の問題点、損益状況の問題点、会計上の問題点、税金対策について、業績改善のための具体的改善策の提示、改善スケジュール案と改善効果提示、等々

内部調査

【現地調査実施】

事業所覆面調査・判定・リスク評価等々(立地、設備、顧客動向、等々)

事業再生計画作成

【経営診断と内部調査結果を元に再生計画作成】

事業再生3ヵ年計画書、キャッシュフロー表(資金繰り表)、予算管理表、等々

 

事業再生計画の作成過程

 

事業再生計画の作成過程、並びに、事業再生1年後の損益計画と主な事業再生計画の前提条件は下記の通りです。

 

事業再生計画作成のポイント

営業部門

営業部門12事業の内、5つの事業が経常的に赤字に陥っている。5つの内、3つの事業は条件付けで存続の見込みがあるが、2つの事業は再建の可能性がないため閉鎖を検討せざる得ない。不採算事業の閉鎖で約30億円の経費削減効果あり。等々

 

製造部門

製造部門19事業の内、2つの事業が経常的に赤字に陥っており、3つの事業が赤字転落のリスクがある。売上総利益の上位80%を構成する商品以外は製造廃止として製造品目を縮小する。不採算事業の閉鎖と売上総利益率の改善で15億円の経費削減効果あり。等々

 

子会社・保有資産

組織改編と子会社売却で整理する。子会社の組織改編等で約3億円の経費削減効果あり。加えて保有資産の売却で資金調達を図る。等々

 

リストラ費用の算定

営業部門、製造部門、子会社の事業閉鎖、取壊し、人員整理等のリストラ費用を27億円と見積もり計画に計上。等々

 

※上記は事業再生計画作成の一部過程を抜粋したもの

 

事業再生計画提示(1年目)

売上高

10,000,000

 売上原価

6,500,000

 売上原価率65%

売上総利益

3,500,000

 売上総利益率35%

 販売管理費

3,000,000

 売上高経費率30%

営業利益

500,000

 売上高営業利益率5%

(金額単位:千円)

 

主な事業再生計画の前提条件

再生チームの発足(必要な資質:判断力・決断力・統率力・企画力・実行力)、再生費用の調達、組織改編、不採算部門の閉鎖、経営者教育、後継者育成・教育、管理会計の導入、経営情報の開示、キャッシュフロー表、資金繰り表の作成、予算管理の導入、3ヵ年の事業計画作成、不採算商品・サービスの収益改善、経営改善の推進、等々

 

 

伊藤のワンポイント
 

本案件は、わたしの事業再生案件のなかで最大規模(年商200億円)のものです。この会社は、本体のほかに子会社が3つあり、本体を構成するメイン事業部が12部門、それぞれのメイン事業部の中にさらにサブ事業部が5~7部門あり、経営診断の対象部門数は40を超えました。

 

夫々の部門の経営診断を行い、会社全体の赤字原因を探ってみると、至るところに赤字の原因があることが分かりました。

 

経営診断作業は分析と検証の繰り返しで、検証に誤りがないか?整合性はとれているか?を絶えず繰り返すことで、実効性のある事業再生計画の骨子が見えてきます。

 

そして、経営診断作業と並行して行ったのは、それぞれのメイン事業部の覆面調査です。

 

現場の状況と数字が合致しているかをつぶさに観察し、数字を確信に変えるのです。真夏の暑い時期に汗をかきながら現場を歩き回ったことを今でも覚えています。

 

実効性があり、納得のいく事業再生計画書が仕上がったのは依頼から3ヵ月後のことです。

 

この会社の赤字経営の根本原因は、小さな赤字原因を見逃し続けたところにありました。

 

ほんの小さな赤字原因であっても、それを見逃したまま放置すると、たとえ売上が200億円あったとしても簡単に倒産の危機に瀕します。

 

この原則は、どんな会社にも共通する衰退の法則です。

 

赤字の原因を見逃さないためには、定期的な経営診断が有効です。定期的に会社の健康状態をチェックしていれば、深刻な経営状態に陥る前に様々な対策を講ずることができるからです。

 

結局、本案件は、事業再生計画を元に依頼主が自主再生の道を選択しました。