中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)とは、取引先事業者の倒産の影響を受けて、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防止するための共済制度である。
中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、中小企業倒産防止共済法に基づき、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している。
この記事では、中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)の概要、並びに、倒産防止共済に頼らない安定経営の秘訣について、詳しく解説する。
倒産防止共済は少額の掛け金から加入でき、一定の契約期間を経て解約した場合は、掛け金が全額返金されることから、主に経営に不安を感じている中小企業が利用している保険の一種である。
中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)の主な概要について、順を追って、詳しく解説する。
加入資格は、1年以上継続して事業を行っている中小企業者で下表の条件に該当する会社である。
業種 |
資本金の額又は出資の総額 |
常時使用する従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業その他の業種 |
3億円以下 |
300人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
小売業 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
ゴム製品製造業 |
3億円以下 |
900人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 |
3億円以下 |
300人以下 |
旅館業 |
5,000万円以下 |
200人以下 |
掛金月額は、5,000円から20万円までの範囲(5,000円刻み)で自由に選べ、掛金総額が800万円になるまで積み立てられる。掛金は税法上、法人の場合は損金、個人の場合は必要経費に算入できる。
運転資金が枯渇して一時資金を擁する場合の貸付条件は下表の通り、機構解約の場合に支払われる解約手当金の95%の範囲内である。すでに貸付けを受けている共済金や一時貸付金がある場合は控除される。
掛金納付月数 |
一時貸付金の貸付限度額 |
---|---|
1ヶ月~11ヶ月 |
0円 |
12ヶ月~23ヶ月 |
掛金総額 × 75% × 95% |
24ヶ月~29ヶ月 |
掛金総額 × 80% × 95% |
30ヶ月~35ヶ月 |
掛金総額 × 85% × 95% |
36ヶ月~39ヶ月 |
掛金総額 × 90% × 95% |
40ヶ月以上 |
掛金総額 × 95% × 95% |
掛金総額が800万円の場合 |
800万円 × 100% × 95% (760万円) |
取引先の倒産で売掛債権の回収が困難になった場合の貸付条件は下表の通りである。原則無利子で、返済期間は貸付額に応じて変わる。
貸付額 |
返済期間 |
---|---|
5,000万円未満 |
5年 |
5,000万円以上6,500万円未満 |
6年 |
6,500万円以上8,000万円以下 |
7年 |
共済契約の解約は、以下の3種類がある。
(1)任意解約:共済契約者がいつでも行うことができる解約である。
(2)みなし解約:個人事業主が亡くなった、法人(会社など)を解散した、法人を分割(その事業のすべてを承継)した場合など、その時点で解約されたものとみなされる。ただし、共済契約の承継が行われたときは解約にはならない。
(3)機構解約:12ヶ月分以上掛金の払込みが滞った場合に、中小機構が行う解約である。また、不正行為により共済金の貸付けなどを受けようとしたときも、機構解約となる。
共済契約が解約されたとき、掛金納付月数が12ヶ月以上の場合、解約手当金が支払われる。ただし、掛金納付月数が12ヶ月未満の場合は支払われない。また、不正行為により共済金や一時貸付金などの貸付けを受け、または受けようとした場合も支払われない。
解約手当金の額は、下表の通り、掛金の納付月数に応じて、掛金総額に次の表の率を乗じた額となる。
掛金納付月数 |
任意解約 |
みなし解約 |
機構解約 |
---|---|---|---|
1ヶ月~11ヶ月 |
0% |
0% |
0% |
12ヶ月~23ヶ月 |
80% |
85% |
75% |
24ヶ月~29ヶ月 |
85% |
90% |
80% |
30ヶ月~35ヶ月 |
90% |
95% |
85% |
36ヶ月~39ヶ月 |
95% |
100% |
90% |
40ヶ月以上 |
100% |
100% |
95% |
※共済金や一時貸付金の貸付けを受けていて、返済していないものがある場合は返済期日前でも、解約手当金の額から控除される
※解約手当金は税法上、法人の場合は益金の額、個人の場合は事業所得の収入金額に算入することになる
ちなみに、倒産防止共済保険は節税効果(税金の繰延のみ)が殆どないので、節税対策で加入を検討する場合は内容をしっかり吟味することをおススメする。
さらに詳しく倒産防止共済の内容を確認したい方は、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)のホームページに記載してある「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」をご覧頂きたい。
倒産防止共済保険は、もしもの対策として保険は有効な一面もあるが、保険に頼って日々の経営を疎かにしてしまっては、中小企業の発展成長は見えてこない。
やはり、保険に頼ることなく安定経営の基盤を作ることが最も安全な倒産防止保険といえる。ここからは、倒産防止共済保険に頼らない安定経営の秘訣について、詳しく解説する。
倒産防止共済保険に頼らない安定経営の秘訣1は「月次決算書を正しく作成すること」である。
月次決算書とは、会計期間を1ヶ月に区切って作成される財務諸表のことで、中小企業においては貸借対照表と損益計算書で構成され、試算表とも呼ばれている。
事業活動の全ての結果が表れ、なお且つ、一定期間内の収支の詳細が分かる月次決算書は、事業活動の良し悪しを的確に判定する根拠資料として有効活用できる。
当然ながら、いい加減に作成された月次決算書は、正しい判断や決断を支える根拠資料になることはなく、判断ミスを誘発し、倒産を助長する。
例えば、英会話学校「NOVA」の倒産(2007年)は、前受けの売上を分割計上しなかったために誤った損益認識に陥り、会社が倒産に至っている。
大手電機メーカー「東芝」の不正会計問題(2015年~2017年)は、粉飾決算ありきのいい加減な費用見積が原因で、会社が倒産の危機(債務超過)に瀕した。
旅行会社の「てるみくらぶ」の倒産(2017年)は、NOVAと東芝の混合タイプで、前受け売上を分割計上していなかったこと、更には倒産の2年前から粉飾決算に手を出していたことが原因で、会社が倒産に至っている。
このように、不正確な月次決算書は衰退リスクを高め、企業を倒産の危機に追い込む。倒産を未然防止するには、正しい月次決算書の作成が欠かせないのだ。
【関連記事】月次決算書とは|読み方・分析・いつまでに仕上げる
倒産防止共済保険に頼らない安定経営の秘訣2は「管理会計を導入すること」である。
管理会計とは会社の数字を、有益な情報に変換、管理、運用し、企業の経営力を高める会計手法のことである。
管理会計は、会社の数字を良質な根拠情報に変換する効果があるので、倒産防止に最適である。
また、合理的な目標管理が可能になるので、倒産のきっかけを作る業績悪化の予兆を早期に捉えることができる。
例えば、「売上総利益高営業利益率」は、業種業態関係なく明快な利益目標を示すので安定経営を支える指標になる。計算方法と優良水準は下記の通りである。
売上総利益高営業利益率=(営業利益÷売上総利益)×100
優良水準:20%
管理会計で売上総利益高営業利益率をモニタリングすると、利益の現状と目標が明確になり、やるべきことが明確になる。しかも、利益改善は、即、倒産防止の対策に繋がるので非常に有効的だ。
【関連記事】中小企業の経営力を高める管理会計入門
倒産防止共済保険に頼らない安定経営の秘訣3は「販売先のリスク管理をすること」である。
中小企業は販売先のリスク管理を行わないと思わぬところで倒産の危機を迎えることがある。なかでも販売依存度が高い取引先のリスク管理は重要だ。
販売依存度が高い取引先のリスク管理は、売上構成比率(占有率)で判定できる。計算方法と判定基準は下記の通りである。
売上構成比率(占有率)=(販売先の売上÷会社全体の売上)×100
判定基準:5%以下
例えば、会社全体の売上が1,000万円で、会社全体の内、ある販売先が100万円の売上だった場合、その販売先の売上構成比率は「100万円÷1,000万円×100=10%」となる。この場合、5%以下にリスク分散する経営改善が求められる。
下請け構造の中小企業の場合は、大口の販売先によって経営が成り立っている会社も多いと思うが、売上の大部分を大口販売先に依存すると、会社の倒産リスクが高まる。
なぜなら、大口販売先の取引が消滅すると、連鎖倒産の危機を招くからだ。大口販売先の依存度を下げることは倒産防止に有効な対策なのだ。
(この記事は2017年3月に執筆掲載しました)
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