低価格路線とは、安さを武器に市場拡大を推進する戦略だが、中小企業において、低価格路線や低価格戦略の末路は決して明るくない。
事実、資金面に限りのある中小企業は、低価格路線で経営に失敗するケースが非常に多い。
この記事では、低価格路線や低価格戦略の末路、並びに、低価格路線・戦略の失敗リスクについて、詳しく解説する。
既存市場に後発参入する場合は、低価格が集客の役に立ち、事業規模拡大を後押しすることはあるが、低価格を売りにしたまま、未来永劫、成長発展を遂げる中小企業は稀だ。
なぜなら、低価格では適正な利益水準をキープすることが難しく、成長投資に向ける原資の確保が十分にできないからだ。
事務所や店舗を所有している、減価償却を終えた建物で営業している、など等の特殊な要因があれば多少の長続きはするかも知れないが、十分な成長投資ができなければ、何れ限界がやってくる。
成長投資には様々な領域があり、建物や設備の保守保全費用、社員教育費用、開発費用、市場開拓費用、製造効率や能力の改善費用など等、その領域は多岐にわたる。
低価格路線や低価格戦略を推し進めた結果、些少の利益しか手元に残らず、十分に成長投資の費用が賄えなければ会社はどうなるだろうか?
恐らく、
☑事務所や店舗の老朽化と共に経営が破たんする
☑変動費や固定費の多少の増額がきっかけで経営が破たんする
☑事務所や店舗を外部賃貸に切り替えた途端に経営が破たんする
など等、低価格路線の末路は、悲惨な結果になるだろう。
中小企業が価格戦略の誤りから会社経営に失敗しないためには、会社の利益水準が適正か否かを日頃からモニタリングすることが大切になる。
当然ながら、適正な利益水準がキープされない状態で会社経営を続けると資金繰りに窮してしまい、会社経営は何れ行き詰まる。
例えば、次の2つのグラフは実在する中小企業の「売上」と「営業利益」の実績値を表したものだ。
金額単位は何れも百万円で、ひとつ目のグラフは、創業間もない小売業である。
ご覧の通り、創業年から3年で創業時の約3倍の売上規模(1.1億円)まで成長しているが、利益は一向に増えていない。
低価格路線で集客を優先した結果、利益が残らないという大きな副作用が残ったことが分かる。
次のグラフは、創業50年を迎える小売業である。
グラフは直近5期分の売上と営業利益の推移だが、ご覧の通り、5年前から売上が5億円も増加(35億円→40億円)しているにも関わらず、利益は一向に増えていない。
真ん中の48期には2億円の借入を起こしているので、運転資金に窮している状況は容易に想像がつく。
このように、中小企業が低価格路線を推し進めると、収益性が著しく低下し、資金繰りも悪化する。
当然ながら、低い収益性では、十分な成長投資ができないので、持続的成長の実現が困難になる。
必要資金を貸してくれる銀行がある内は良いが、借入金の返済原資は会社の利益なので、利益ゼロの状態で借入限度額を超過した瞬間に倒産の危機にさらされる。
このように、中小企業において低価格路線や低価格戦略の末路は、決して明るいものではないのだ。
※一つ目の事例企業は実際に私が経営サポートに入り2年かけて高収益体質に改善している。一度、低価格路線に舵を切ると後戻りするのが大変だが、必ず打つ手はある
スケールメリットが出せない中小企業の低価格路線や低価格戦略の最大のデメリットは「収益性が低い」という点だ。
従って、会社の収益性さえ改善できれば低価格脱却の道筋が見えてくる。
中小企業の収益性を改善する方法は、大きく2つある。
ひとつは、販売価格を上げること。もう一つは、仕入値(売上原価)を下げることだ。
価格を上げた分、或いは、仕入値を下げた分は、そのまま全て利益に転換される。
価格を上げることが困難な場合は、売上構成比の上位20%の商品群の関連商品を、現状商品よりも高い売上総利益率(粗利率)でラインナップすることで全体価格を引き上げることができる。
売れている商品の関連商品はついで買いを促進するので、比較的短期間で効果が上がる。
仕入値を下げる方法は色々あり、例えば、納品ロットを増やして単価を下げる、決済方法を現金払いにして単価を下げる等は有効だ。
モノやサービスを他人よりも安く売るという手法は、最も手軽に売上を作る方法だが、低価格は低収益を生み出し、尚且つ、一度、手を出すと抜け出すのが困難というデメリットがついて回る。
大企業であっても低価格オンリーで競争に勝ち抜くのは困難で、事実、低価格路線で経営が破たんした大企業、或いは、赤字経営に苦しんでいる大企業は沢山ある。
中小企業が低価格に頼る前にすべきことは沢山ある。
☑低価格以外で勝負できる強みはないか?
☑独自の付加価値を高める努力はやり尽くしたか?
低価格に頼らない経営努力を継続していれば、自ずと未来は明るいものになる。