杜撰な現金管理は、業績悪化の原因になるばかりか、不正や横領の温床にもなりかねない。
事実、会社のお金を社員が着服する横領事件の殆どは、杜撰な現金管理が原因で起きている。
この記事では、横領されるダメ経営者の現金管理パターンと横領を防ぐ現金管理方法について、詳しく解説する。
杜撰な現金管理から端を発した横領事件はじつに多い。
以下は横領事件の抜粋だが、なかには24億円という途方もない横領もある。
大手電力グループ会社社長が1,500万円横領
大手電力のグループ会社でソフト企画・販売業の男性社長(60)が、勤務実態のない親族に給与を支払うなどの手口で会社の資金少なくとも約1,500万円を着服した疑い...。(2016.6.12 産経ニュース)
製紙会社元総務部長が15年で24億円着服
飲む、打つ、買う--。男の下卑た欲望を、すべて会社のカネで手に入れた男が警視庁に業務上横領容疑で逮捕された。自らの欲望を満たすために注ぎ込んだ金額は実に24億円以上...。(2016.6.11 産経ニュース)
元経理部長が2億円着服
同協会によると、元部長は昨年4月~今年4月、加盟するタクシー会社から協会の口座に振り込まれた会費を、インターネットバンキングを使って自分の個人口座に送金する手口で着服した。(2016.5.24 時事通信)
横領事件が起こる会社の規模は中小企業も大企業も関係ない。
手口はさまざまあるが、横領事件の構造は「社員が会社のお金を着服する」というケースが大部分を占めている。
「社員が会社のお金を、、、」
社員を監督する立場にいる経営者がいるにも関わらず、何故、横領事件が起こるのだろうか?
横領事件の最たる原因は「経営者の現金管理の丸投げ」である。
例えば、現金管理に対する経営者の監視なり抑止力が弱まるほど、現金の横領リスクは高くなる。
逆に、現金管理に対する経営者の監視なり抑止力が強まるほど、現金の横領リスクは低くなる。
現金管理の丸投げは、経営者の数字力と密接な関係がある。
数字に弱い経営者は、得てして経理分野にも弱い。経理=ブラックボックスと考える経営者も多く、苦手意識が強すぎる経営者は経理分野に過度な拒否反応を示すこともある。
さらに拒否反応の度が行き過ぎると、いち経理担当者に、会社の現金管理から経理全般のチェック機能まで、全て丸投げしてしまうことも起こり得る。
こうなると、現金管理の全ての決裁権を経理担当者が握ることになり、現金の横領事件が起きるのは、時間の問題となる。
現金の横領事件が起きると、会社も、経営者も、経理担当者もみんなが不幸の連鎖に包まれる。
会社の社員を信頼することは大切なことだが、人間なので性善説はあり得ない。
性悪説に立って、社員が善良でいられるような環境を作るのが経営者の役目だ。
特に欲得のからむお金を目の前にして出来心を抑制するのは難しいので、中小企業においては、経営者自身が現金管理をしっかり行う必要がある。
中小企業の現金管理の必要最低限の管理項目は下記の通りである。
①銀行の印鑑は経営者が保管し使用するときも経営者自身
②現金支払い時は必ず経営者の了承を得たうえで実行する
③小口現金等の現金出納帳を経営者がWチェックする
④財務諸表(貸借対照表・損益計算書)を把握する
①と②の現金管理項目は、最も重要だ。
これを他人に任せて現金の横領事件が起こってしまったら、それは経営者の責任だ。
③の現金管理項目は、経営者が一つずつチェックするのが大変なので、1ページ毎に承認印を押すなど、半ば、メクラ判でも構わない。
これは、社長に見られているという意識を経理担当者に与えるのが目的である。経理担当者の出来心抑止に繋がる。
④の現金管理項目は、経営者が資産と損益の動きを誰よりも深く把握することで、経営者の目を盗んで不正ができないという心理状況を作るのが目的である。
財務諸表が読めない経営者であれば顧問税理士を招いて経理担当者同席のうえ、解説してもらうとよいだろう。
①、②、③の現金管理項目が万全にできていれば、いち経理担当者が会社のお金を操作することはできない。
架空取引や子会社を利用して横領を図ろうとした場合は、④の現金管理項目で資産と損益の動きを把握していれば指摘することが可能だ。
現金を社員に横領(持ち逃げ)されたという話は、恐らく、殆どの中小企業経営者が実際に聞いたことがあると思うが、それだけ現金管理にだらしのない会社が多いということだ。
現金管理は会社経営の肝です。現金管理の精度が資金繰りや成長投資のコントロールに影響を与えるからです。さらに、現金がなくなると会社が倒産するので、現金ほど重要な管理項目はありません。現金管理がいい加減な会社ほど、組織の利益意識が弱く、少しのきっかけで衰退するケースが多いです。