経営マネジメント原論5|七大資源「コスト」の最適化


経営マネジメント原論5、


本記事では、七大資源「コストの最適化(コストマネジメント)」について、詳しく解説する。


さて、厳しい市場競争を生き抜くのは難しくない。


ライバル企業よりも少ないコストで、より良い商品やサービスを提供すれば良いだけだ。


つまり、コストの最適化は、未来の競争優位性を高める。


コストを最適化するうえで最も重要なのは、お金(コスト)の使い方だ。


どんなに稼いでいても、お金の使い方を誤ると、会社は簡単に衰退する。


お金の使い方を誤って人生を棒に振る人や会社経営に失敗する人が後を絶たないのは、お金の使い方を知らないからだ。


いつの時代もお金の稼ぎ方・儲け方・増やし方に注目が集まるが、本当に大切なのはお金の使い方なのだ。


まず抑えるべきは、徹底して生き金を使うことだ。


お金は生き金を使うと巡りが良くなり、不思議とお金に苦労しなくなる。


例えば、心から感謝してお金を使う。所有ではなく、一時の預かりものと考えて、お金を気持ちよく経済に還流する。


社員にご馳走する時は自腹を切る。力量を上げるために身銭を自己投資に回す。買い支えや資金援助など、社会貢献に繋がるお金を使う。


応援の気持ちを込めて、起業間もない会社やお気に入りのお店の商品を購入するなどのお金の使い方は生き金の典型だ。


生き金と死に金の境目は、私利私欲か否かで判断すると分かりやすい。


社長の私利私欲を満たすお金(コスト)は死に金だ。死に金はリターンがないので、衰退を引き寄せる。


逆に、他者(社員・お客様・取引先等)の幸せを満たすお金(コスト)は生き金だ。生き金はリターンが大きく、繁栄を引き寄せる。


お金の使い方は自分の意思で選ぶことができる。当然、よき使い方を選び続ければ、会社の未来はどんどん明るくなる。


コストマネジメントの基本


コストマネジメントの基本は、コストを真剣に使うことだ。


コストは売上を作るために費やすお金だ。節約したり、散財したりするのではなく、なるべく、真剣に、ダイナミックに使うことが大切だ。


事業に関わる経済領域にコストを強くぶつけるほど、売上拡大の余地は大きくなる。


創業間もない頃はお金にゆとりがないので、いつも真剣にコストを使うものだが、殆どの会社は、会社が安定するにつれて、この意識が薄らぐ。


当然、この状態が続くと、売上を押し上げるコストの力は確実に低下する。


永続性のある売上を確立するには、コストを全く関係のない経済領域(節税・本業以外・私利私欲等)に流したり、成長の局面で出し渋ったりするのではなく、どんな時も真剣に、時には自分の報酬や会社の利益を犠牲にしてでもコストを使う姿勢が必要だ。


ひとたびコストの費用対効果が悪化すると、売上はあっという間に減少傾向に傾く。


そこから挽回するのは至難の業で、大概は、乾いた雑巾を絞るような苦しいコスト削減を強いられ、浮上のきっかけがつかめないまま衰退の一途を辿る。


売上拡大に陰りが見えた時は、より真剣に、よりダイナミックにコストを使ってほしい。コストが売上の源泉になることを決して忘れないことだ。


コストマネジメントの重要ポイント


コストマネジメントの重要ポイントは、上位コストの使い方を極めることだ。


上位コストには、会社と業界のクセが如実に表れる。殆どの会社は人件費が一位になるが、二位以下は業種業態によって変わる。


上位コストの使い方が上手な会社、あるいは、上位コストがライバルよりも少ない会社は、市場競争に勝ち残り易くなる。


また、上位コストの費用対効果を高める努力は様々なイノベーションを誘発するので、新しい未来を作るチャンスに恵まれる。


なお、上位コストの費用対効果を高める方法は、総量規制やゼロベースでコストを削減する方法と、事業活動の生産性を高めてコストを抑える方法の二通りがあるが、お薦めは後者の方法だ。


金額ベースのコスト削減は、小さな会社ほど早晩に行き詰る。


一方、生産性の改善は、技術革新や社会インフラの進歩と共にずっと続けることができる。


また、生産性の改善は、ヒト・モノ・カネ等の経営資源の最適化を後押しする。


経営資源は、すべてが独立して存在せず、すべてが繋がっているので、種々の経営資源の最適化が進むほど、事業活動の生産性は高まり、コストも最適化される。


コストマネジメントの注意点


コストマネジメントの注意点について、解説する。


コストを最適化する上での注意点は、生産性を上げるために、人を酷使しないことだ。


社員の疲弊、社員の離職、社員の使い捨てを招き、加速度的に衰退するのがオチだ。


生産性は、最新の設備・仕組み・ノウハウの導入で高めるのが正攻法だ。


社員の業務負担やストレスが軽減されるだけでなく、顧客サービスの品質も一段とレベルアップするので一石二鳥の効果がある。


社員からも、お客様からも支持される会社は、いつまでも愛され、未来に残る。


コストのマネジメントが未来を切り拓く


今の売上を作るコストだけでなく、未来の売上を作るコストを使うことも必須だ。


未来投資が無ければ事業は先細りになるので、全体コストの一定量は未来の売上を作るためのコストに振り分ける必要がある。


未来投資は、毎年見直す戦術的投資(市場調査・情報収集・広告宣伝等)、毎年続ける戦略的投資(人財育成・開発研究・生産性改善等)、大きな設備投資や先行投資を伴う中長期的投資の3つの領域に分かれるが、毎年投資効果を検証し、自社の経営環境に適したポートフォリオを組むことが大切だ。


また、まさかの事態に備えた自己資本の蓄積(内部留保)も未来投資のひとつだ。


成長投資には失敗がつきものなので、稼いだ利益を全て成長投資につぎ込むのは危険だ。


利益の一部を自己資本の蓄積に回し、失敗を挽回できるだけの体力をキープすることが肝要だ。


特に、資金調達の手段に限りのある小さな会社は注意が必要だ。利益は自由に処分できるお金ではなく、立派なコストだ。


利益をコストだと思えば、利益の出し方や利益の使い方がよりシビアになる。結果、事業活動のムダムラが削ぎ落されて、最適なコスト構造が確立される。


コストの最適化は永遠のテーマだ。


時の流れと共に、事業活動に矛盾が生じ、課題が生じるからだ。


この矛盾や課題を解決することが進化を加速させ、コスト構造の完成度を高める。


しかし、完成度が高まったからと言って、安心するのは禁物だ。世の中の変化と共に、コスト構造の完成度は必ず低下するからだ。


だからこそ、会社の中だけでなく、外に対してもアンテナを張り、最新の知見を把握することが大切だ。


最新の情報・設備・ノウハウ等を誰よりも早くキャッチアップし、創意工夫で社内に取り込む。この繰り返しが、コスト構造の完成度をキープする秘訣だ。


もし、やり方に迷ったり、悩んだりすることがあれば、いつでもご相談に来てほしい。懇切丁寧にアドバイスすることをお約束する。


次回ページでは、事業活動を支える七大資源「ヒト・モノ・カネ・情報・コスト・モラル・テクノロジー」のうち、「モラルの最適化」について、詳しく解説する。


次ページ⇒7大資源「モラル」を最適化する


(この記事は2023年9月に執筆掲載しました)


筆者プロフィール

ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」