中小企業の事業再生事例7(年商1.7億円)

中小企業の事業再生事例7(年商1.7億円)

 

本事業再生事例は、「年商1.7億円、営業利益▲2.5千万円、借金残債2千万円」の中小企業のケースです。

 

資金調達力に乏しい中小・中堅企業の事業再建は大きな痛みを伴うケースが多いので、危機的状況に陥る前に、日頃から然るべき手を打って安定経営を実現することが大切です。

 

事業再生事例ほど成功のヒントを得られる教材はありません。以下の事業再生事例から何かを学び取り、反面教師として経営に活かしてください。

 

 

事業再生調査時の経営状況

中小企業の事業再生事例7(年商1.7億円)

 

事業再生調査時の業績状況と調査内容は下記の通りです。

 

事業再生調査時の業績状況

売上高

175,000

 下降傾向

 売上原価

65,000

 売上原価率37.1%

売上総利益

110,000

 売上総利益率62.9%

 販売管理費

135,000

 売上高経費率77.1%

営業利益

▲25,000

 売上高営業利益率▲14.3%

借入金残高

20,000

(金額単位:千円)

 

事業再生調査内容

経営診断

【経営資料から分析】

資産状況の適正診断、損益状況の適正診断、経営上の問題点、資産状況の問題点、損益状況の問題点、会計上の問題点、税金対策について、業績改善のための具体的改善策の提示、改善スケジュール案と改善効果提示、等々

内部調査

【現地調査と社員面談実施】

会社経営に関わるあらゆる面の調査・判定・リスク評価等々(経営、販売、営業、組織、開発、設備、人事、物流、生産、社員、等々)

事業再生計画作成

【経営診断と内部調査結果を元に再生計画作成】

事業再生3ヵ年計画書、キャッシュフロー表(資金繰り表)、予算管理表、等々

 

事業再生調査で判明した経営課題

 

事業再生調査で判明した主な経営課題(解決すべき問題点)、並びに、事業再生1年後の損益計画と主な事業再生計画の前提条件は下記の通りです。

 

事業再生で解決すべき経営課題

経営面の課題

経営方針が不明。経営者、部門長の経営能力が低い。経営者はじめ役職者も業績を把握しておらず赤字経営を容認している。予算管理と業績目標がない。コスト意識が甘い。危機管理能力が低い。部門長が感情的で逆上する。社員の声が無視されている。等々

 

組織面の課題

情報が伝わってこない。部門間の協力がない。役職者が社内ルールを守らない。反抗的な社員がいる。稟議制度がない。情報の共有ができていない。指示命令系統が崩壊している。社員の団結がない。愛社精神が希薄。等々

 

販売営業面の課題

お客様の声を無視している。清掃が十分にできていない。サービス精神がない。設備や機器のメンテナンスが十分にできていない。社員教育ができていない。サービスの質が低い。原価割れのサービスがある。原価計算をしていない。等々

 

事業再生計画提示(1年目)

売上高

140,000

 売上原価

40,000

 売上原価率28.5%

売上総利益

100,000

 売上総利益率71.5%

 販売管理費

90,000

 売上高経費率64.3%

営業利益

10,000

 売上高営業利益率7.1%

(金額単位:千円)

 

主な事業再生計画の前提条件

不採算部門の閉鎖、組織改編、経営者教育、後継者育成・教育、管理会計の導入、経営情報の開示、キャッシュフロー表の作成、資金繰り表の作成、予算管理の導入、3ヵ年の事業計画作成、不採算商品・サービスの収益改善、経営改善の推進、等々

 

 

伊藤のワンポイント
 

事業再生対象企業は、地方公共団体が運営する官営事業でした。

 

官営事業といっても、働いている従業員は経営者以外、全員民間人です。

 

官営事業は、黒字経営であれば税収が増加し国民生活の向上に貢献しますが、赤字経営であれば国民の税金が赤字補てんで無駄に消費され、国民生活の足を引っ張ります。

 

この会社は、開業以来万年赤字経営の、将に”ぬるま湯体質”の会社でした。

 

働く従業員にも、「赤字経営でも雇用の不安がない」、或いは、「赤字経営でもどうせ税金から補てんされるだろう」という”ぬるま湯体質”が根付いて、その体質が働く姿勢にも表れていました。

 

更に、厄介なことに、この事業そのものが政局のダシに使われていて、地方公共団体のトップ、つまり経営者が交代すると、過去の経営方針が全て覆されていました。

 

これでは、たとえ経営改革を断行したとしてもその効果が長続きすることはありません。

 

従業員としても、「トップが変わればどうせ元に戻る」という意識が離れないので、常に投げやりな仕事という悪循環に陥っていました。

 

地方公共団体の無責任体質の縮図を見た感じでしたが、結局、本案件は、事業再生計画を元に依頼主が自主再生の道を選択しました。