中小企業の人材育成で大切なことは、第一に、社員を理解することである。
なぜなら、社員の性格、仕事ぶり、得手不得手、長所短所、貢献度等は十人十色であり、その十人十色の社員の集合体が会社の組織を形成するからだ。
従って、経営者がひとり一人の社員を理解し、公平な社員評価の基準を持つことが人材育成を成功させる絶対条件になる。
この記事では、中小企業の人材育成で大切なことについて、詳しく解説する。
人材育成の肝は、社員の評価基準にある。
しかし、経営者が全ての社員に対して不満を抱かせない公平な評価基準を持つことは、じつに難しい。
例えば、能力が多少劣っていても人並み外れた明るさを持ち合わせている社員がいたとする。
明るさという取り柄は、天性の長所で誰しもが持ちえない能力の一種であり、組織の活性剤とも潤滑剤ともなりえる代えがたい長所でもある。
もしも、経営者の評価基準が能力一辺倒であれば、このような明るさを持ち合わせた社員は評価の対象外になり、組織からはじき出される可能性がある。
組織から明るさが無くなると摩擦、嫉妬、妬み等のマイナス要素が蔓延し、組織が弱体化することがあり、人材が限られている中小企業ほど、こうしたマイナス要素の弊害が顕著に表れる。
能力の低い社員が、じつは業績に貢献していた、ということは往々にしてあることだ。また、お城の石垣同様、大きさの違う様々な凸凹が組み合わさってこそ、強度の強い組織(土台)が完成する。
やはり、能力の凸凹、性格の凸凹、様々な凸凹要素を経営者が認め、社員同士が尊重し合う環境がなければ、人材が人財に育つことはない。
前章で解説した通り、経営者の評価基準は中小企業の人材育成の成否を大きく左右する。
人材を人財に育て上げるには、経営者が正しい人事評価の基準を持つことが大切で、経営者の人事評価基準が曖昧だと人材育成は失敗する。
ここで、経営者の正しい評価基準を考えるうえで役に立つ、戦国時代の一時代を築いた三人の武将の「ホトトギスの詩」を紹介する。
▶織田信長「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」
▶豊臣秀吉「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」
▶徳川家康「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」
織田信長の合理主義、豊臣秀吉の楽観主義、徳川家康の保守主義、というそれぞれの個性がよく表現された詩である。
ひと昔前は、経営者のタイプをこの三人の武将に例えて分別する時代もあったが、人材育成という観点でこの詩を眺めると経営者として少し物足りない面がある。
なぜなら、三人の詩を振り返ると「ホトトギスは鳴くものだ」というひとつの固定概念にとらわれた評価基準が結論を導いているからだ。
経営者であれば、もう少し大きな度量を持った社員の評価基準が必要で、これでは、前章で示した明るさという長所を持ってはいるものの少し能力が劣っている社員同様、鳴かないホトトギスは評価の対象外になってしまう。
戦国時代から昭和の時代に下り経営の神さまと云われた松下幸之助氏はホトトギスの詩を全く別次元の境地で歌い上げている。
▶松下幸之助氏「鳴かぬならそれもまたよしホトトギス」
鳴かないホトトギスもホトトギスとして認めようという寛容さがにじみ出ているが、中小企業の経営者に必要なのはこの寛容な評価基準だ。
これが出来ないならダメ社員というレッテルを張るのではなく、これができないのであればこれはどうだろうかという寛容さが人財を育てる。
そして、人材が人財に育つと、自ずと組織力が向上する。人材が限られている中小企業ほど、組織力で会社経営の成功が決まる。
私が30代のころに50歳年上の80代の教育者にお会いした際に、その方は次のようなことを仰っていた。
「教育者は諦めが悪い人間でなければ務まらない」と。
中小企業の人材育成も同じで、経営者が人材を人財に育てる諦めない気持ちと、根気強く教育を続ける姿勢が大切になる。
少なくとも多少能力が劣っていようとも会社の経営方針に従って一生懸命仕事に取り組んでいる社員に対しては、寛容さを持って教育する必要がある。
会社の経営資源は社員のほかにもお金やモノや情報など色々とあるが、社員はその中で最も伸びしろのある貴重な経営資源で、経営者の接し方ひとつで100の力が0にも1,000にもなる不思議な経営資源でもある。
中小企業は有能な人材を簡単に集めることができないので、人材育成を工夫しなければ強い組織を作ることはできない。中小企業経営者は、このことを肝に銘じて、社員を育成する覚悟を持つことが必要だ。