外食産業の将来性|外食市場の衰退を防ぐ5つの条件

外食産業の将来性|外食市場の衰退を防ぐ5つの条件

 

外食産業とは、飲食ビジネスを展開している事業体の総称のことである。

 

外食産業のプレイヤーはファストフードやファミリーレストラン等の大規模チェーン店から個人飲食店まで多種多様にあり、長い歴史の中で様々な食ジャンルやサービス形態を生み出し、一定の市場規模をキープしたまま現在に至っている。

 

外食産業の競争率は極めて高いので、他の産業に比べると事業生存率が極めて低い。この記事では、外食産業の将来性、並びに、外食市場の衰退を防ぐ5つの条件について、詳しく解説する。

 

 

外食産業の将来性

 

料理家の辰巳芳子さんは「食べることは呼吸と等しく、生命の中に組み込まれている」と云った。

 

呼吸をしないと生きていけないように、人は食べなければ生きていけない。これは、厳然たる事実である。

 

また、すべての食事を自活で賄うことは至難の業で、多くの人は自分の都合に合わせて、食べることを他者に頼る姿勢を当たり前のこととして受入れている。

 

つまり、食べる行為をサービスの根幹においている外食産業は、社会にとって不可欠な存在であり、将来性に満ちた産業といえるのだ。

 

 

外食産業のルーツから拡大まで

 

外食産業のルーツを辿ると、鎌倉時代の典座(修行僧の食事係り)、室町時代の茶屋(簡素な飲食店)等がある。

 

しかし、外食産業の市場規模が大きくなるまでの期間はじつに長く、事実、今から半世紀ほど前までは、小規模な飲食店が主流だった。

 

外食産業が確固たる地位を築いたのは1970年代以降のことで、この頃に登場したファストフードやファミリーレストランの隆盛と共に市場規模が一気に拡大した。

 

その後は、流行り廃り、消費者の変容、経済の浮き沈み等に揉まれながら、様々な食ジャンルやサービス形態を生み出し、一定の市場規模をキープしたまま現在に至っている。

 

 

外食市場の衰退を防ぐ5つの条件

 

長い歴史を振り返れば分かるように、人々が食べることを放棄しない限り、外食産業が廃れることはあり得ないが、一方で、常に需要があるために、新規参入が容易で、過当競争に陥り易いデメリットがある。

 

事実、外食産業の企業生存率は他の産業よりも著しく低い。つまり、全体の市場規模は変わらずとも、市場のプレイヤーが次々と変るのがこの産業の最たる特徴になる。

 

厳しい生存競争を生き抜く秘訣は、他の商売同様「目の前の顧客に尽くすこと」が大前提になるが、外食産業においては次の5つの条件が大切だ。

 

  1. 美味しい
  2. 季節感
  3. 進化する
  4. 情報発信
  5. 最高の接客

 

美味しい、季節感、進化する、情報発信、最高の接客、この5つの条件を追求しながら、目の前のお客様に尽くしていれば、外食産業は自然と繁栄する。

 

逆に、繁栄に陰りが出た時は、どこかに不足があるといえる。それぞれのポイントについて、それぞれ詳しく解説する。

 

 

美味しさは絶対条件

 

外食市場の衰退を防ぐために「美味しさ」は絶対条件になる。

 

不味いものにお金を払うお客様はいない。いかにして美味しいものを提供するかが勝負の分かれ道になる。

 

ちなみに、私は美味しいものを食べることを唯一の贅沢としているが、決まってオーナーシェフのお店に行く。料理の世界では、オーナーシェフと雇われシェフの仕事ぶりに天と地ほどの差が出るからだ。

 

某フレンチレストランは、従前のシェフがレストランオーナーになった途端に、料理とホールスタッフの仕事ぶりが一段と洗練された。

 

某天ぷら屋の店主は、オーナーシェフじゃなかったら多店舗展開させられて味が一段も二段も落ちるのがオチ。オーナーだからこそ一流の天ぷらをお客様に提供することができると常々言っている。

 

こうしたオーナーシェフのお店は往々にして繁栄しているが、それは、自分の欲得や安易な拡大を追求することなく、目の前のお客様に最高の美味しさをお届けする姿勢を貫いているからに他ならない。

 

たとえ雇われシェフのお店であっても、オーナーがシェフと一体になって最高のパフォーマンスを追求しているお店は必ず繁盛している。

 

 

季節感は新規顧客の呼び水になる

 

外食市場の衰退を防ぐために「季節感」も重要になる。

 

日本は四季の移ろいが明確にあるが、その影響は食文化にも及んでいる。

 

お正月のおせちに始まり、春は山菜、夏は鰻や鱧、秋は秋刀魚、冬はお鍋など等、春夏秋冬に合わせた旬のお料理が数多くある。

 

季節感の演出は、常連客に喜びを与えるだけでなく、新規顧客の発掘にも効果的なので、ぜひ実践することをお薦めする。また、季節感に郷土感を加えると、お料理の表現の幅が一段と広がる。

 

 

進化なくして繁栄なし

 

美味しさと季節感の演出が板についてきたら、現状に甘んじることなく「進化する」ことが大切だ。

 

こちらの都合に関係なく突き進むのが世間でありお客様である。従って、進化を止めることは、即、衰退を引き寄せる。

 

料理の勉強、食材の調理研究、食材の調達ルート開拓など等、お客様を満足させるための知恵と技能を磨き、常に進化することが今を超える感動の源泉になる。

 

また、最新の技術・設備・ノウハウ・テクノロジー等を積極的に取り入れて、経営基盤を進化させることも大変重要だ。

 

 

情報発信が衰退を遠ざける

 

経営マネジメントの発明者であるピーター・F・ドラッカーは、経営の目的は新規顧客の創造にある、という考えを強く提唱したが、そのために必要な取組みは「情報発信」である。

 

例えば、いかにお料理が美味しくても、お店の前に情報が何も無ければ入店を躊躇する。最低限、お料理とお値段程度の情報提供は不可欠である。

 

また、ITツールやホームページ等を活用して、お店のストーリーやこだわり等を発信することも大切だ。常連さんがいたとしても一定数は必ず離脱する。離脱を補完し、一定の来店客数をキープするには情報発信が欠かせません。

 

更に、お客様は与えられた情報で物事の価値を評価する。事業に関連する直接的な情報だけでなく、清潔感や安心感、或いは、空間やデザインなどの間接的な情報に至るまで、情報発信を積極化するほど新規顧客の創造が容易になる。つまり、情報発信が衰退を遠ざけるのだ。

 

 

最高の接客が事業価値を高める

 

外食市場の衰退を防ぐための最後の条件は「最高の接客」である。

 

わざわざお店に来て下さったお客様、或いは、わざわざお料理を取り寄せて下さったお客様と二度目のご縁があるとは思わず、どんなお客様に対しても一期一会の姿勢で最高の接客をお届けすることが大切になる。

 

商品やサービスを選ぶ決定権は常にお客様が握っている。従って、お客様一人ひとりに対する接客の瞬間を最高品質に高める努力、笑顔、感謝を決して忘れてはならない。

 

但し、お客様は神様ではないので、こちらの提供価値とマッチしないお客様の要望に関しては、丁寧にお断りしても差支えない。

 

例えば、和食のお店に来店したお客様から洋食の要望があった場合は、「うちは和食に命を懸けていますので、洋食は別のお店で召し上がって下さい」と丁寧にお断りするのが正解になる。

 

ビジネスにおいて、すべてのお客様の要望を叶えるのは不可能だ。自分たちの事業価値(事業競争領域)の範囲内でお客様に最高の接客を提供することが大切なのだ。

 

 

外食産業には明るい未来がある

 

外食産業には明るい未来がある。なぜなら、人間社会に欠かせない大切な産業だからである。

 

人口の増減と共に市場規模の変動は多少あると思うが、市場自体が大きく縮小することはあり得ない。市場が拡大して半世紀という点を考慮しても、明らかに成長産業である。

 

未来は今の行いで決まる。どんなビジネスにも通じることだが、まだやれる、まだやることが沢山あると言い聞かせて、前向きなチャレンジ精神を持って、今すべきことに全身全霊で取り組むことで、未来はどんどん切り拓かれる。

 

(この記事は2020年12月に執筆掲載しました)