
経営マネジメント原論7、
本記事では、七大資源「テクノロジーの最適化(テクノロジーのマネジメント)」について、詳しく解説する。
二十一世紀に入り、テクノロジーを起点に、既存の戦略やビジネスモデルの付加価値を高める、あるいは、既存の仕組みを再構築する企業変革の手法が完全に定着した。
これからの時代は、自社に取り込んだテクノロジーを常に最適化する企業が生き残る。
テクノロジーは、限界コストをゼロにする。
限界コストとは、事業活動の過程で発生する必要最低限のコストのことだが、テクノロジーの進化と共に、限界コストはゼロに向かう。
例えば、ひと昔前は、画像や動画データのシェアに、記録媒体の購入コストと記録に費やす労働コストが発生していたが、今は、データをクラウドに保存すれば、限界コストゼロの状態でデータをシェアすることができる。
また、会議をオンライン化すれば、移動費用や会議スペース等の限界コストがゼロになる。
このように、事業活動に関わる様々な限界コストがゼロに近づけば、少ないコストで大きな売上を作ることができる。
極端な話、まったく資金が無くても、ビジネスが成立する可能性すらある。
日本の会社は、世界と比べてテクノロジーの活用が遅れていると言われている。そして、この傾向は、労働生産性が低い会社や業界ほど顕著だ。
会社の意思決定を行う経営層がテクノロジーに疎いと、つい慣れているやり方に固執し、テクノロジーの活用を遠ざける傾向にあるが、これでは古いやり方はいつまでもアップデートされず、世界との差は広がるばかりだ。
経営層が率先してテクノロジーに慣れ親しみ、活用する努力をすれば、会社の生産性は簡単に改善する。さらに、限界コストがゼロになる業務領域も拡大する。

テクノロジーを社内で一から構築する必要はない。
商用化されたテクノロジーを素早く取り込んで、経営環境に応じて最適化する。この繰り返しをトップの責任で推進するだけで良い。
現実と仮想をテクノロジーで繋ぐと、事業活動の生産性が驚くほど上がる。
現実世界と全く同じ状況を仮想空間上に再現することをデジタルツインと言う。
デジタルツインは、「現実データを取得」→「端末機器や仮想空間に再現・複製・視覚化」→「操作・分析・シミュレーション」→「現実世界へフィードバック」の基本サイクルをベースに、
無人化・省人化・自動化・最適化・遠隔操作・教育訓練・情報処理・未来予測等を、高速、かつ高精度で実現するテクノロジーだ。
製造業や建設業だけでなく、農業、小売、運輸、医療、製品開発、保守保全、ヘルスケア、カスタマーセンター等、幅広い分野での活用が進んでいる。
世界最大の電気自動車メーカーのテスラ車両には、デジタルツインが標準装備されている。
各車両の状況は常時クラウド上でAI(人工知能)が解析し、分析・シミュレーションが行われ、車両状態や気候条件に合わせて、自動でソフトウエアがアップデートされる仕組みだ。
テスラ側は車両診断のコストが抑えられ、顧客側は車両診断に出向く時間と労力を省ける。
テスラ創業者のイーロン・マスクは、車両を進化させるより、車両を作る工場、保守体制、開発現場を進化させた方が数十倍も効果が高いという考えで、積極的にテクノロジーを活用している。
この先、世界人口は減少を迎える。現実世界にヒトが出向くことが難しくなる時代において、デジタルツインの活用はますます欠かせなくなるだろう。

テクノロジーに明るい人財を配置することも大切だ。
多くの会社がテクノロジーを活用している中で、自分の会社だけがテクノロジーを使わないとなると、この先の未来を生きるのは難しくなる。
検索エンジンにおいて四半世紀ほど一強時代を築いたグーグルですら、「本気で変わらなければ、新興テクノロジー企業に負ける」と考える時代だ。
テクノロジーに明るい人財を一人でも多く配置できれば、テクノロジーと親和性の高い企業風土が定着し、新しいチャレンジやイノベーションが活発化する。
今後、テクノロジーに明るい人財の市場価値は上がり続ける。
初期段階は外注業者でも構わないが、なるべく早い段階で社員化(専属化)し、その社員を中心に組織のテックスキルを研鑽することが、テクノロジーの最適化を加速する秘訣だ。
テクノロジーを活用すれば、どんな産業であっても、どんなに小さな会社であっても、どこからでも成長できる。
習うより、慣れろの姿勢で、質より量を優先し、事業活動にどんどんテクノロジーを取り入れてほしい。
効果が出なければもとに戻せばよいだけのことだ。
生成AIのChatGPTは、米国の医療資格やペンシルベニア大学など、難関とされる試験で合格ラインに達する実力を持っている。
今の時代は、これだけの頭脳を無料(有料でも月額数千円)で誰でも利用できる環境にある。
価値ある情報や膨大な知見も広くオープンにされている。安価で有能なテクノロジーはたくさんある。
日ごろから楽しく愉快に新しいテクノロジーに触れていれば、知らぬ間に、価値あるテクノロジーが社内に蓄積する。当然、最適化も適宜進む。

テクノロジーのマネジメントの注意点として、テクノロジーの力を過信しないことが挙げられる。
テクノロジーを使えば、人間の頭脳や臓器の代替品までも作ることができるが、人間の心だけは未だに作ることができない。
事実、AI(人工知能)やビックデータを駆使して顧客心理を読んだとしても、独り勝ちした企業は未だに現れていない。
深層心理のことを「心」と言う。
ヒトの最適化の記事でも触れたが、心ほど非合理な存在はない。
商品の中身は一緒でもブランドの見せ方ひとつで値段が高くても売れたり、今すぐ使わない商品を衝動買いしてみたりと、心は非合理の連続で動いている。
現時点において、テクノロジーをもってしても、人間の心を完全解析することは不可能だ。
この領域に関しては、相手の立場になって、その人の本音にアクセスする他ない。
くれぐれも、テクノロジー一辺倒で生身の人間の心を分かろうとしないことだ。テクノロジーの限界を理解したうえで、上手に活用することが何よりも大切だ
以上、事業活動を支える7つの経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報・コスト・モラル・テクノロジー」を最適化する方法について解説した。
何れの経営資源もバランスよく最適化することが欠かせないが、最初から百点を目指す必要はない。
まずは50点を目指してほしい。七つの経営資源がそれぞれ50点を超えれば、未来を生き抜くのに十分な経営基盤が整う。
その後は、社長の得意分野の経営資源を伸ばせば良い。一つでも秀でた経営資源が出てくると、そこが会社の強みとなって、他の経営資源の最適化を後押しするトリガーになる。
7つの資源のどれか一つでも50点を下回ると、そこが弱点となって会社の衰退リスクが膨らむので、くれぐれも注意してほしい。

最後に、マネジメントの肝となる経営資源の最適化について、補足解説する。
経営資源の最適化は、社長ひとりの力で推進する必要はない。社員や外部の協力者を巻き込んで、なるべく大人数で取り組んでほしい。
また、経営資源の最適化は、一朝一夕にはいかない。想定外の事態が起きたり、周囲の変化に応じた紆余曲折があったり、社内外からのバッシングがあったり、様々な障害にぶつかる。
ひとりの力では乗り越えられないことも、二人、三人と参画者が増えるにつれて、掛け算のごとく大きな力となり、大概の苦難は乗り越えられるようになる。
どうにかなる、という考えで今の事業活動に満足するのではなく、どうなるか、どうするかを絶えず考え、経営資源を最適化することが企業繁栄の大原則だ。
もし、やり方に迷ったり、悩んだりすることがあれば、いつでもご相談に来てほしい。懇切丁寧にアドバイスすることをお約束する。
次回ページでは、七大資源「ヒト・モノ・カネ・情報・コスト・モラル・テクノロジー」を最適化しつつ、更にそれらの「経営資源の価値を最大化するために必要な仕掛け」について、詳しく解説する。
(この記事は2023年9月に執筆掲載しました)
ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」