中小企業が銀行融資で資金調達するには、第一に、銀行融資の審査基準を理解することが欠かせない。
なぜなら、銀行融資の審査基準の理解度が高いほど、資金調達のハードルが下がるからだ。
例えば、経営者が銀行融資の審査基準を理解していれば、事前に必要書類を準備する、或いは、経営環境を整える等の先手が打てるので、資金調達の手続きを円滑に進めることができる。
この記事では、銀行融資を受ける際に中小企業経営者が理解すべき審査基準のほか、融資査定の分析方法、各金融機関の融資姿勢に至るまで、詳しく解説する。
銀行融資の審査基準は「債権者区分・信用格付・取引方針区分」の3つの審査基準に集約される。
この3つの審査基準をクリアすることができれば、銀行融資の道が開ける。
なお、審査基準は、銀行の監督官庁が関与している基準と、銀行独自の基準がある。
例えば、債権者区分は金融庁の金融検査マニュアルに基づいて査定基準等が明確に決まっているが、信用格付と取引方針区分は銀行各自の独自マニュアルに基づいて査定基準が設けられている。
因みに、銀行融資の3つの審査基準のなかで最も重要視されていて、尚且つ、厳格に運用されているのは、銀行の監督官庁が関与している債権者区分になる。
債権者区分とは、企業の業績に応じて正常/非正常を区分決定する査定のことだ。
債権者区分は下表の通り5つに区分され、債務者区分が下位区分になるほど会社の業績評価が悪くなる。
1.正常先 |
2.要注意先 |
3.破綻懸念先 |
4.実質破綻先 |
5.破綻先 |
債務者区分の定義は、金融検査マニュアル別冊 〔中小企業融資編〕にて概ね定められているが、要点を抜粋すると下記の通りになる。
1.正常先
業況が良好であり、財務内容に特段の問題もなく、延滞もない企業のことである。 |
2.要注意先
要注意先は、要注意先と、要管理先、に分けられる。
要注意先とは、業況不調で財務内容に問題がある、もしくは融資に延滞がある企業のことをいう。要注意先の中でも、特に融資の全部または一部が要管理債権である企業は要管理先となる。
要管理債権とは、3ヶ月以上の延滞となっている融資、もしくは貸出条件緩和債権である融資のことをいう。貸出条件緩和債権とは、債務者の経営再建または支援を図ることを目的として、金利の減額や免除、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄などを行った融資(リスケジュール)のことをいう。 |
3.破綻懸念先
経営難にあり、改善の状況になく、長期延滞の融資がある企業のことである。 |
4.実質破綻先
法的・形式的には経営破綻の事実は発生していないが、自主廃業により営業所を廃止しているなど、実質的に営業を行っていないと認められる企業のことである。 |
5.破綻先
破産などの法的手続きが開始されていたり、手形の不渡りにより取引停止処分となっている企業のことである。 |
債権者区分の審査方法は、金融検査マニュアル別冊 〔中小企業融資編〕に加えて、銀行が夫々の独自基準を設けて査定している。
査定するうえでの根拠資料は、会社概要書や商品カタログのほか、直近数年分の月次試算表や決算書等を使用する。
決算書等の財務諸表の内容を通じて、経営上の問題点、損益状況、資産状況のほか、粉飾の有無や不良性資産の有無を精密に分析し、より実態に近い純資産状況を把握し、区分を最終決定している。
利益水準と純資産水準が適正であれば「正常先」に区分されるが、利益水準と純資産水準が適正よりも下回っていれば下位の区分に査定される。
信用格付とは、企業と経営者の信用度を決定する査定のことだ。
企業の過去の実績、将来性等々の企業を取り巻く状況、並びに、経営者の資質、信頼度、等々の経営者の能力、紹介経由であれば、紹介者等第三者の心証等々、銀行担当者個人の企業評価等々、企業と経営者の信用度を総合的に分析し、格付けを行っている。
格付けは数段階に分かれているが、総合的に信用度の高い企業は良い格付けになる。
一方、将来の見通しが暗い企業や、第三者や銀行担当者の信用度が低い企業の格付けは悪くなる。
取引方針区分とは、債権者区分と信用格付の結果、銀行の姿勢、つまり、取引方針を決定する査定のことだ。
取引方針区分は、下表の通り概ね5つに区分される。
1.積極推進方針 |
条件付き限度額以上の融資可 |
2.推進方針 |
通常範囲内の融資可 |
3.現状維持方針 |
条件付き融資可 |
4.消極方針 |
追加融資なし |
5.取引解消方針 |
積極回収 |
銀行融資は「債権者区分・信用格付・取引方針区分」の3つの審査基準の結果を総合的に判断し、融資金額、金利等の融資条件が提示される。
なお、債権者区分と信用格付を査定するうえでの分析方法は、データに表れる定量分析と、データに表れない定性分析によって行われる。
定量的分析とは、財務諸表等に基づいて企業の安全性、収益性、成長性、返済能力等を分析する評価方法で、具体的な主な分析項目は下表の通りになる。
安全性 |
自己資本比率、固定比率、流動比率、当座比率など |
---|---|
収益性 |
売上高営業利益率、総資本回転率、純資産など |
成長性 |
売上成長率、営業利益成長率、純資産など |
返済能力 |
債務償還年数、手元資金、保有資産含み益など |
定性的分析とは、経営者の資質や信用力、企業の経営方針や将来性等、データには表れない業績に貢献する分野を分析する方法で、具体的な分析項目は下表の通りになる。
経営者の資質 |
経営能力、経営方針、信頼度、個人資産など |
---|---|
企業の強み |
営業力、技術力、社員の質、競争力、シェアなど |
企業の将来性 |
市場動向、景気動向、市場規模、競合動向など |
中小企業が銀行融資を受ける際は、各金融機関の特徴も理解する必要がある。なぜなら、銀行の規模等によって、融資の姿勢に大きな違いがあるからだ。
メガバンクとは預金残高、貸出残高が莫大な都市銀行のことである。メガバンクの中でも代表的な銀行が、三大メガバンクと云われている、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの三つの銀行である。メガバンクは金融機関の中で最も融資基準が厳しく、審査にも時間がかかる。数億クラスの融資規模も数多く取り扱っていて、金利は低い傾向にある。
地方銀行とは、全国地方銀行協会に加入している第一地銀と、第二地方銀行協会に加入している第二地銀があり、総称して「地方銀行」、略して地銀という。両社の違いは、歴史の違いにある。第一地銀は歴史が古く、比較的大きな規模で現在と同じような銀行業務を行っていた金融機関である。第二地銀は、当初は規模が小さく、ややリスクの高い業務を行っていた金融業者が、平成元年の「金融機関の合併及び転換に関する法律」に基づき、株式会社へと転換し普通銀行になった経緯がある。地銀は、企業への融資等を通じて地域経済の発展に貢献することを目的としているので、会社所在地に地銀の支店等があれば融資を受けやすい環境にある。金利はメガバンクより高い傾向にある。
信用金庫は信用金庫法に基づいて設立されている非営利目的の金融機関である。集めたお金をその地域の企業に貸し出すことによって、その地域の循環的な発展に貢献することを目的としている。信用金庫法によって該当エリアの法人・個人しか会員になることができない。また、従業員数や資本金等の加入要件の基準がある。金利は、メガバンクと地銀よりも高い傾向にある。経営者の人柄や信用に重点をおいた融資基準が設けられている。
銀行融資は稟議制度で承認が進むので、根拠資料が多いほど融資基準の審査評価が高くなる。
従って、中小企業が銀行融資を依頼する際は、財務諸表等の経営データに加えて、融資後の経営改善計画等の事業計画も必ず提示した方が良い。
銀行融資は、会社の投資を促進し、事業の成長スピードを加速させる効果を持つ。
銀行融資の審査基準をクリアするために何をすべきなのか?
日頃の準備が、銀行融資を成功させる秘訣になる。
(この記事は2016年7月に執筆掲載しました)