経営資源が限られている中小企業が新規事業を成功に導くことは容易なことではない。
なぜなら、新規事業の成功確率は極めて低く、いかに準備が万端であっても失敗リスクがついて回るからだ。
この記事では、失敗リスクを事前に捉え、新規事業を成功に導くリスク分析手法について、詳しく解説する。
新規事業の成功確率は極めて低いが、このような条件下で新規事業を成功に導くには、緻密なリスク分析を行い、事前に失敗リスクの芽を潰すしかない。
失敗リスクを抱えたまま新規事業を展開すると、新規事業が失敗に終わるだけでなく、本業のビジネスも危機的状況に陥ることもあり得る。
新規事業のリスク分析に有効な手法のひとつに「成功の確率判定」がある。
成功の確率判定とは、その事業の成功確率に関わる要素を徹底的に査定するリスク分析手法のことだ。
新規事業の成功確率には、様々な要因が絡み合う。
例えば、ヒト(人材)、モノ(商品・設備等)、カネ(資金)、情報(広告等)、など等、新規事業に関連する要因は挙げたらキリがない。
これらの要因を全て列記して、一つひとつの要因の成功確率を細かく査定すると、新規事業全体の成功確率が見えてくる。
下表は、新規事業の成功確率の判定を行う場合のリスク分析表の例になる。
事業に関連する要素 |
要素の詳細説明 |
成功確率 |
---|---|---|
事業責任者 |
社長兼任につき問題なし |
100% |
スタッフ |
A事業部の精鋭数名で対応 |
100% |
資金 |
調達済 |
100% |
製造元 |
試作テスト済み |
100% |
広告戦略 |
予算500万円で展開予定 |
100% |
販売網 |
予定販売先は全て成約済 |
100% |
商品 |
顧客の評価が不明 |
50% |
***** |
***** |
***** |
***** |
***** |
***** |
この事業の成功確率 |
- |
50% |
上表の項目の中で、商品のみが成功確率50%で、他の項目は全て100%になっている。
この場合の最終的な新規事業成功確率は、全ての項目の確率(%)を乗じた結果である「成功確率50%」がリスク判定の数字になる。
(計算式:商品50%×他100%×他100%・・・・・=成功確率50%)
このリスク分析手法の面白いところは、成功確率0%の項目が一つでも入ると、その事業全体の成功確率も0%になるところだ。
一つひとつの事業要素から全体の成功確率を判定する構造になっているので、失敗リスクを見逃す可能性が低く、精度の高いリスク分析ができる。
なお、各項目の成功確率を査定する場合は、経営者の主観を徹底的に排除することが欠かせない。
なぜなら、経営者の主観が入ると期待値や希望的観測が査定材料に混入し、結果として、成功確率の精度が低下するからだ。
なるべく主観を入れず、客観的事実のみで一つひとつの事業要素の成功確率を査定することが、精度の高いリスク分析結果を導く秘訣になる。
新規事業の成功確率を判定した結果、どの程度ならゴーサインが出せるのだろうか?
新規事業の成功ラインは事業の規模によって幅があるが、安全な成功ラインは「成功確率70%以上」になる。
もし、成功確率が70%未満であれば、新規事業の計画を一から改めた方が良いだろう。
但し、査定にはどうしても主観が混入するので、成功確率が70%以上でも油断はできない。従って、新規事業は、小さな規模でテスト的に開始し、欠陥検証を密に行い、失敗リスクを極力排除する努力をしたうえで規模拡大に移行するのがベストだ。
なお、新規事業が失敗したときに被る損失金額は、予め計画に組み込む必要がある。新規事業が失敗した途端に、会社全体の資金繰りが窮してしまったら元も子もないからだ。
新規事業にはリスクがつきもので、安易な新規事業がきっかけで会社が衰退することは良くあることだ。入念な準備と緻密なリスク分析なくして、新規事業の成功はあり得ないといっても過言ではない。
新規事業は、展開するエリアによって成功確率が著しく低下する。
下の図は新規事業の展開エリアを検討する際に活用できるマトリックスである。
中小企業が新規事業を展開する際に、最も危険な事業エリアは、市場もノウハウも「新規×新規」の事業エリアで、このエリアは全てがゼロからのスタートになるド素人分野に該当し、新規事業の成功確率が限りなくゼロになる。
本業の市場、もしくは、本業のノウハウを活用しての新規事業エリア(既存×新規)であれば成功の望みがあるが、このエリアでも成功確率はせいぜい50%程度に過ぎない。
だからこそ、入念な準備と緻密なリスク分析が、新規事業の成功を左右するのだ。
新規事業のリスク分析は不可欠です。また、新規事業の展開エリアは「既存×新規」という本業に関連するエリアで展開することが正攻法になります。小さな会社ほど新規事業が失敗した時のダメージが大きいですので、リスク分析と展開エリアの設定はくれぐれも慎重に進めてください。