製造業の生産性向上方法|生産性を上げれば会社も成長する

製造業の生産性向上方法

 

生産性の向上は、会社の成長を左右する要素であり、とりわけ製造業にとっては会社存続を左右する重要な取り組みになる。

 

事実、できる限り生産性を高めて、収益力を高めたいと考える製造業者は少なくない。

 

この記事では、主に中小零細企業の製造業の生産性を向上させる方法論について、詳しく解説する。

 

 

中小零細製造業の生産性の実態とは?

 

日本国内の製造業者は中小零細企業が圧倒的に多いが、中小零細(製造業)の生産性に対する経済界の目線は実に厳しい。

 

例えば、「生産性の低い中小零細(製造業)が日本経済の脚を引っ張っている」という大企業経営者や経済学者の論調をたまに見かける。

 

先般も、大企業の社長を数社歴任した経験のある経営者が同じようなことを新聞取材に答えていた。

 

中小零細(製造業)の生産性を上げさえすれば日本経済が上向くという考え方は、少し飛躍しているように感じる。

 

なぜなら、製造業における、大企業と中小零細の生産性向上のスタンスは、全く違うからだ。

 

特に、日本のモノづくりを担う中小零細(製造業)は、その違いが顕著に表れる。

 

じつは、中小零細(製造業)が大企業と同じ方法で生産性を高めると、業績悪化のリスクが高まることがある。

 

製造業における、大企業と中小零細の生産性向上のスタンスの違いが一体どのようなものなのか、具体的事例を交えて、順を追って、詳しく解説する。

 

 

製造業の生産性向上の方法とは?

 

大企業の製造業が実践している生産性向上の方法は、徹底した合理主義の推進だ。

 

製造ラインであれば徹底した自動化や無人化、品質管理であれば徹底した自動判定というように、徹底的に合理主義を推進することで生産性を高める方法が主流だ。

 

一方、中小零細の製造業はどうだろうか?

 

手仕事の製造工程があり、人の手で品質を管理する、或いは、人の手で最終品質を手直しするといった非合理な部分があり、合理主義の推進で生産性を高めることができない製造業者が多いのではないかと思う。

 

無理やり非合理な部分を合理化して生産性を高めた結果、独自性のある開発力や機械では再現できない技術力が無力化してしまう製造業者もあるだろう。

 

製造業者にとって差別化の源泉となる付加価値(開発力・技術力など)ほど重要なものはない。付加価値がなければ、収益性も競争優位性も高まらないからだ。

 

生産性を高めた結果、会社の付加価値を棄損させてしまっては元も子もないが、中小零細の製造業が生産性向上の方法を誤ると、生産性が高まるどころか、業績悪化のリスクを招くことがある。

 

 

中小零細製造業の生産性向上ポイント

 

大企業の合理主義に習って生産性を飛躍的に向上させて、事業規模の拡大に成功した中小零細の製造業者がいるのは事実だが、そのような会社には、必ず「匠の手心(たくみのてごころ)」を持っている経営者や技術者の存在がある。

 

匠の手心とは、端的にいうと「ものづくりの確かな勘や技能」である。

 

ものづくりの確かな勘や技能は、非合理のモノづくり、つまり、ホンモノ(原理原則)を体得しなければ身につかない。

 

製造の現場にものづくりの確かな勘や技能があれば、「こうすればもっと良くなる」、「この問題の原因はここにある」、「この変化を見逃すと大きな品質事故が起きる」など等、機械や数値だけでは感知できない領域をリカバーすることができ、独自性のある開発力や機械では再現できない技術力をキープすることができる。

 

当然ながら、ものづくりの確かな勘や技能を持つ人間が製造現場からいなくなり、非合理のモノづくり(ホンモノ・原理原則)を知らない社員や後継者だけになってしまうと、独自性のある開発力や機械では再現できない技術力が途端に低下する。

 

中小零細企業の製造業が生産性向上に取り組む場合は、匠の手心(たくみのてごころ)を持った経営者や技術者の存在、或いは、手仕事のメリットが活かされている製造工程をいかに次世代に承継するかが重要なポイントになるのだ。

 

 

賢い製造業の生産性の高め方

 

中小零細の製造業者が、合理主義に習って生産性を向上させることは悪い選択ではない。

 

重要なのは、非合理(匠の手仕事、匠の技術・技能)を全て捨て去らないことだ。

 

一度、非合理を全て捨て去ってしまうと、ものづくりの確かな勘や技能が会社から失われてしまい、一時的に生産性が高まったとしても、結果として生産性が低下し、衰退の一途を辿りかねない。

 

長い年月をかけて培った高い開発力や独自の技術力をもっている中小零細の製造業であれば、なおさらだ。

 

非合理をすべて捨て去るのではなく、小さな規模でも非合理部分を残すことが、生産性を向上させ、尚且つ、企業の寿命をのばす賢い方法である。

 

事実、大企業の合理主義に習って生産性を飛躍的に向上させて、事業規模の拡大に成功した中小零細の製造業者のなかには、昔ながらの製造ライン(手仕事ライン)を小さく残し、手仕事の商品づくりを継続している会社が沢山ある。

 

或いは、製造ラインの生産性向上を目指しつつも、商品の品質や強みを支えるキーポイントにしっかり手仕事を残している会社も沢山ある。(世界をリードしている大企業の製造業者なかにも手仕事を残している会社がある)

 

非合理と合理が混合した製造体制が確立されると、手仕事の知恵(知的財産・ノウハウ)を活かしながら、非合理部分を継続的に合理化する取り組みができるので、独自の開発力や技術力が低下することはない。

 

むしろ、生産性向上と共に、独自の開発力と技術力が更に強化される。

 

生産性向上という短期的な目線ではなく、先の先を見据えた長期的な目線を持った会社経営こそ、中小零細の製造業者が長く生き残る秘訣でもあるのだ。

 

 

製造業の生産性の測定方法

 

生産性は、経営資源の投下とそこから生まれる収益の大きさから測定することができる。

 

例えば、生産性が高い会社は少ない経営資源で大きな収益を、生産性の低い会社は大きな経営資源で少ない収益を生み出しているといえる。

 

製造業の生産性の測定方法は「人時生産性」が最も運用しやすい。人時生産性は、一人一時間当たりの生産性を様々な角度から分析する経営指標で、総労働時間さえ分かれば、生産性の詳細な分析が可能になる。

 

例えば、売上高(分子)÷総労働時間(分母)で一人一時間当たりの売上高が計算でき、分子を原価、粗利、販管費、営業利益、或いは、製造個数、稼働時間等々の数字に変換すると、様々な角度から一時間当たりの生産性を測定することができる。

 

また、作業者や製造ライン毎に作業タイムをストップウォッチで測定する方法、或いは、作業導線の距離を測る方法や商品歩留まりの測定等も生産性を測定する方法として有効だ。

 

こうした製造業に適した生産性を測定する方法が定着するほどに、現状と改善実績のモニタリング精度と共に、生産性が向上する。

 

伊藤のワンポイント
 

生産性向上は会社経営の必須活動です。高い生産性は、大きな収益の源泉になるからです。しかし、生産性改善の手段は慎重に検討しなければなりません。手段を間違えると業績悪化のリスクが高まるからです。大切なことは、生産性改善と並行して、自分の会社の強みを明らかにし、その強みを磨き続けることです。