人時生産性の計算式と適正水準(目安)と向上方法|生産性分析に用いる経営指標

人時生産性の計算式と適正水準(目安)と向上方法|生産性分析に用いる経営指標

 

人時生産性とは、労働の投下に対する時間当たりの収益性を評価する経営指標のことである。

 

人時生産性(にんじせいさんせい)は、少ない人員且つ少ない労働時間で大きな収益を生み出す割合が大きいほど良いといえる。

 

この記事では、人時生産性の計算式から基本の運用方法、人時生産性の向上方法に至るまで、詳しく解説する。

 

 

人時生産性とは

 

人時生産性とは、労働の投下に対する時間当たりの収益性を評価する経営指標のことだが、人時生産性は最重要指標といって過言ではない。

 

なぜなら、殆どの企業の最大コストは人件費であり、人件費の収益効率が低下すると競争の優位性が失われ、会社が衰退するからだ。

 

従って、常に人時生産性をモニタリングし、人時生産性を高める努力なくして企業の成長はないと言える。

 

人時生産性(にんじせいさんせい)は、少ない人員且つ少ない労働時間で大きな収益を生み出す割合が大きいほど良いといえる。そして、人時生産性は、常に、「労働の投下」と「労働の投下に対応する収益」が対の関係にある。

 

つまり、人時生産性が高い会社は少ない人員且つ少ない時間で大きな収益を、人時生産性の低い会社は沢山の人員且つ沢山の時間で、少ない収益を生み出していることになる。

 

例えば、会社の利益が増加傾向にあっても、残業増加や人員過剰で労働効率が悪化すると、人時生産性も自ずと悪化する。従って、人員数と労働時間のふたつの軸を意識しなければ、人時生産性の改善は困難を極める。

 

 

人時生産性と労働生産性の違い

 

人時生産性と似た指標に労働生産性がある。

 

労働生産性とは、労働の投下に対する収益性を評価する経営指標だが、時間当たりの収益性を計算する人時生産性に比べて生産性の計算範囲が広くなる。

 

人時生産性も労働生産性の範疇に入るが、この他にも、イベントや新規事業の採算性(労働の投下に対する収益性)、商品や事業部毎の採算性なども労働生産性の計算範囲になる。

 

労働生産性は、採算割れの働き方や事業活動の収益改善に役立つ経営指標として活用できる。

 

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人時生産性の計算式(求め方)

 

人時生産性を計算するには、全従業員の労働時間会社の収益を算定する必要がある。

 

会社の収益には、付加価値、売上総利益、営業利益、経常利益と様々あるが、ここでは会社の本業の収益を示す「営業利益」を採用する。

 

全従業員の労働時間は、役員、社員、パート等を含む、全従業員の労働時間の合計が計算の基準になる。

 

営業利益ベースの人時生産性の計算式は下記の通りである。

 

人時生産性=営業利益金額÷総労働時間

 

なお、人時生産性の計算精度は、総労働時間の集計精度で決まるので、日ごろの勤怠管理を決して疎かにしてはならない。

 

また、この他にも、売上ベース、売上総利益ベース、販売管理費ベースなど等、様々な指標をベースに人時生産性を計算することができる。

 

※ご参考まで、人時生産性を人事生産性とする表記を稀に見かけるが、これは誤りである。人時生産性は人の時間当たりの生産性を測定する経営指標なので人時生産性が正しい表記である

 

 

人時生産性の適正判定(目安)

 

人時生産性の適正判定(目安)は、以下の通りである。

 

人時生産性の計算金額が増加傾向にあれば良好(適正)、人時生産性の計算金額が減少傾向にあれば悪化(要改善)ということになる。

 

人時生産性を計算すると、会社の収益性や労働生産性だけでなく、社員の増員戦略・現場の生産性・会社の拡大戦略などの良し悪しも分かるので、日常的に運用することをお薦めする。

 

なお、人時生産性がマイナス金額だと、赤字経営ということになる。

 

社員が1時間働くたびに、借金の額が増加している状態を表すので、早急に経営改革の手を打たなければならない。

 

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人時生産性の業界基準(目安)

 

人時生産性の業界基準(目安)は、労働分配率をベースに判定すると分かりやすい。

 

例えば、労働分配率の高いコールセンターなど、労働集約型の業界の人時生産性は低い傾向にあり、労働分配率の低い製造業など、資本集約型の業界の人時生産性は高い傾向にある。

 

労働分配率に関しては「労働分配率の計算式と適正水準」で解説しているので、参考にしてほしい。人時生産性の業界基準(目安)について、それぞれ詳しく解説する。

 

人時生産性が低い業種「コールセンター」

 

人時生産性が低い水準の労働集約型の代表例は「コールセンター」である。

 

コールセンターの運営には沢山の人員(電話オペレーター)が必要な反面、その他の費用はさほどかからない。なぜなら、拠点は地代(家賃)の安い地方が多く、地代家賃以外の経費も電話通信費以外は大してかからないからだ。

 

このように、人件費以外の費用に比べて、人件費の費用割合が著しく大きいのが、労働集約型の特徴であり、このような産業は、総じて、人時生産性が低くなる。

 

人時生産性が高い業種「製造業」

 

人時生産性が高い水準の資本集約型の代表例は、無人化が進んでいる「製造業」である。

 

無人化が進んでいる製造工場は、監督する人間が少なく済み、殆どが機械任せの運営になるが、一方で、人件費以外の費用はたくさんかかる。例えば、機械のリース代やメンテナンス費用、減価償却費用、などである。

 

このように、人件費以外の費用に比べて、人件費の費用割合が著しく小さいのが、資本集約型の特徴であり、このような産業は、総じて、人時生産性が高くなる。

 

人時生産性が高い業種「美容サロン等」

 

人時生産性が高い水準の資本集約型の代表例として、「美容サロン等」のサービス業も挙げられる。

 

なぜなら、利便性の高い駅近で競争を強いられる美容サロン等のサービス業は、地代相場が高い駅近のテナントに入居するケースが多く、テナント料のほか、多額の広告宣伝費や設備代など等、人件費以外の費用が多くかかるからだ。

 

このように、美容サロン等は、人件費よりも、人件費以外の経費が多くかかる資本集約型の特徴を持っていて、人時生産性が高くなるケースが多い。

 

美容サロンのほか、ブランドショップ、アパレルショップ、不動産屋、駅近飲食店、歯科医院、弁護士事務所なども資本集約型の産業に近く、人時生産性が高いケースが多い。

 

人時生産性が標準の業種「スーパー等小売業、飲食店、卸売業等」

 

人時生産性が標準の業種は、労働集約型と資本集約型のバランスが中間に位置する、スーパー等小売業、飲食業、卸売業などである。

 

このような産業は、標準的な労働分配率をキープしつつ、人時生産性を高めることが業績改善の正攻法になる。

 

労働分配率が標準より高い場合は、人件費の割に収益が少ないか、収益の割に人件費が多いか、のどちらかの状態に陥っているということなので、人時生産性の改善を進めることが必要である。

 

【関連記事】「労働分配率の計算式と適正水準

 

 

人時生産性の改善ポイント

 

人時生産性の改善ポイントは、以下の通りである。

 

人時生産性は営業利益を全社員の総労働時間で割るので、営業利益が競合他社より優れていても、残業増加や過剰人員で労働生産性が劣っている会社は、人時生産性の水準が低下する。

 

つまり、少ない人員と少ない労働時間の経営体制を確立したうえで、営業利益を拡大しなければ、人時生産性は改善しないのだ。

 

少数精鋭体制に向いている中小企業が、人時生産性の最大化を目標に掲げると、自然と、骨太な経営体質に改善されていくので有効に活用してほしい。

 

【関連記事】人件費と人件費率の計算と理想の目安

 

 

人時生産性を計算するうえでの注意点!!

 

人時生産性を計算するうえで、ひとつ注意点がある。

 

それは、人時生産性で社員の働き方、或いは、社員の能力を評価する場合は、前章で紹介した営業利益ベースで計算しなければならない、ということだ。

 

例えば、下表のような損益状況の2つの店舗があったとする。

(金額単位:千円)

売上

営業利益

総労働時間

A店舗

15,000

▲1,000(赤字)

1,500

B店舗

10,000

1,000(黒字)

1,500

 

夫々の店舗の「売上」と「営業利益」の人時生産性は下表の通りである。

(金額単位:円)

売上ベース

営業利益ベース

判定

A店舗

10,000

▲667

社員が働くほど赤字金額が膨らむので会社への貢献度は低い

B店舗

6,667

667

社員が働くほど会社の利益が増えるので会社への貢献度が高い

 

会社の生存を担保する要素は売上ではなく「利益」である。

 

従って、人時生産性で社員の働き方、或いは、社員の能力を判定する場合は営業利益ベース(会社への利益貢献度)で判定しなければならない。

 

もしも、売上ベース一辺倒で人時生産性の評価を行ってしまうと、黒字経営のB店舗の店長よりも、赤字経営のA店舗の店長の方が優れているという結果が出てしまう。

 

当然ながら、会社への利益貢献度が高かったB店舗の店長が、自身の評価に不満を感じて会社を去ってしまったら大事な人財を失う羽目になりかねない。

 

このように、人時生産性の計算は目的に応じて使い分けないと、会社経営の足を引っ張ることがあるので注意が必要だ。

 

 

人時生産性を向上させる方法

 

中小企業が人時生産性を改善するには、社員の働き方のムダムラを徹底的に解消するか、収益を増加させるかの二択しかない。

 

社員の働き方のムダムラは、言ってみれば利益の垂れ流しなので、ムダムラの解消は、即、利益改善(収益アップ)と人時生産性の向上に繋がる。

 

人時生産性の悪化を招く働き方のムダムラはあらゆる領域にあるが「目標運用・情報共有・ブランド向上・やる気向上・仕事の仕組み化・責任感向上」などの取組みは、ムダムラの解消と人時生産性の向上に効果的だ。

 

具体的な方法論は「会社の生産性を上げる実践ノウハウ」で詳しく解説しているので参考にしてほしい。

 

どんなに有能な社員であっても、仕事をしていなければムダムラの原因になり得るので、客観性と公平性を持った視点が、人時生産性を向上させる優れたアイデアを生み出す秘訣になる。

 

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人時生産性はコスト管理の最重要指標

 

人時生産性コスト管理の最重要指標である。

 

なぜなら、会社のなかで最大のコストが人件費だからだ。

 

人時生産性は、効率的な人員配置や人員投下の適性判断の基準指標、或いは、人件費と収益のバランスコントロールの基準指標になるので、コスト管理に欠かせない重要指標といえる。

 

人時生産性の運用次第で、会社経営の明暗が分かれる場合もあり得るので、しっかり運用したい指標でもある。

 

なお、人時生産性で人件費等のコストを管理することの重要性は、社員に付随するコストを考えれば自ずと理解できる。下表は、社員に付随するコスト例である。

 

社員に付随するコスト例

人件費

社員の給料である。通勤交通費、諸手当、残業代のほか、賞与等の臨時報酬も含まれる。

法定福利費

会社負担分の社会保険料である。会社は社員が負担すべき社会保険料の1/2の金額を負担しなければならない。

福利厚生費

社員用のアメニティー施設、社員優待制度の各種費用、社員旅行・社員行事の各種費用等、社員の福利厚生充実を図る費用が含まれる。

研修教育費

社員研修、勉強会等に費やす費用が含まれる。

会議費・接待交際費

社員と取引先との打合せ、接待や贈答等の費用が含まれる。

旅費交通費

社員の外出交通費、出張費などが含まれる。

その他費用

社員が仕事を行う上での電気代等の水道光熱費、デスクスペース等の地代家賃等などの付随費用もある。

 

以上の通り、社員ひとりに付随するコストは意外と多い。

 

一般的に、社員を一人整理すると、ひとりの人件費の1.5~2倍のコストダウンが図れる。つまり、社員一人当たりの維持コストは、当該人件費の1.5~2倍のコストが費やされていることになるのだ。

 

このことからも、人時生産性で人件費等のコストを管理することの重要性と、人時生産性が会社の利益水準を左右する重要な経営指標であることが分かると思う。

 

伊藤のワンポイント
 

人時生産性は安定経営に欠かせない重要指標です。人時生産性が分かると組織運営の悩みが緩和されるだけでなく、会社経営の肝となる収益性や競争力の分析・目標基準も明快になります。また、拡大経営や成長投資の失敗リスクを低減する効果もあるので、日頃からモニタリングすることが大切です。