中小企業の場合、創業者が株式を100%保有しているケースが多く、この場合の会社と株式(※1)の譲渡先は、親から子へという、親子間の事業承継が一般的になる。
会社を親子間で事業承継する場合、いつかは、親子間で株式の譲渡をしなければならないが、株式譲渡に悩む経営者は意外と多い。
この記事では、非課税贈与を活用した税金ゼロの株式譲渡の方法について、詳しく解説する。
株式譲渡は、子供側に潤沢な資金があれば円滑に進むが、実際にこのようなケースは稀だ。
なぜなら、譲渡する株式価値が高額になると、株式の対価だけでなく、相続税や贈与税などの税金負担も重くなるからだ。
大概は、子供側に満足な資金がない状態で株式譲渡を検討することが多く、株式譲渡金の支払いに応じることが難しいケースも珍しくない。(株式を相続対象にしたとしても相続税が高額になると株式譲渡のハードルが高くなる)
また、親側も、出資当時よりも株式価値が上がっていれば、差益に対して所得税が課税され、税金負担が重くなる。
このように、親子間の株式譲渡であっても、親子間で金銭取引が生じたり、税金負担が重くなったりと、株式譲渡は何かと資金負担の重いイベントになる。
※1 株式とは出資の対価として交付される株主の証(あかし)のようなもの。出資とは株式会社を設立する際の会社の始業資金となる資本金のことで、資本金の出資者のことを株主という。会社は出資額に応じて株主に株式(株券)を交付し出資割合を明確にする
株式譲渡を先送りにすると危険なリスクが生じる。
例えば、株式譲渡を先送りにしている最中に、突然、代表者が亡くなると、株式が相続の対象になり、家族(配偶者と子供)に分散譲渡されてしまう。
実質経営者が親から子供へ承継されていたとしても、株式が家族に分散譲渡された結果、正当な後継者が2/3以上の株式を保有できなければ、様々な問題が生じる。
例えば、株主同士が対立し、会社の経営方針を巡って争いが起きれば、会社経営はたちまち危うくなる。「船頭多くして船山に登る」のことわざ通り、会社経営の舵取りは複数になるとうまくいかない。
実質経営者であっても、持株比率(※2)の勢力次第では、代表取締役を解任されることもあり得る。
経営能力がない代表取締役の解任であれば問題ないが、 株主同士の欲得が絡んだ代表取締役の解任であれば、正当な後継者と社員が犠牲になる。
こうなると、会社の生存率は著しく低下し、場合によっては、衰退しか道がないという状況に陥ることもある。
このような衰退リスクを解消するには、相続で株式が分散譲渡される前に、正当な後継者に株式を譲渡することが必要になり、最低でも、会社経営の重要事項が決定できる2/3以上の株式数を目安に、株式譲渡を進めるのが理想になる。
※2 持株比率とは、株式の出資割合のことで、持株比率に応じて会社の支配権の範囲が決まる。例えば、株主がひとりであれば支配権はひとりに帰属するが、株主が複数人いれば持株比率に応じて支配権の範囲が変わる。
子供に株式譲渡の資金が満足になく、親の方も税金を支払う余裕がないということであれば、贈与税の非課税枠を活用した株式譲渡金ゼロ&税金ゼロで株式譲渡を進める方法がある。
贈与税は、ひとりの人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかる。
従って、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかからない。(この場合、贈与税の申告も不要だ)
この110万円以下の非課税枠を使って、毎年、親から子供へ株式譲渡を行えば、株式譲渡の売買代金も、納税義務も不要になる。
株式譲渡に伴う家族間の金銭取引、或いは、納税義務を回避したい場合にお薦めの方法で、この贈与税の非課税枠を活用した株式譲渡の必要書類は下記の通りになる。
☑株式価値証明書
☑株式贈与契約書
☑株主承諾書(必要に応じて)
何れの書類も、税理士の先生に作成を依頼すれば簡単に用意してくれる。
将来に向かって明確な目標があり、社員と共に長期経営を目指している経営者であれば、2/3以上の株式保有が必須条件になる。
なお、稀に粉飾決算で株式価値を意図的に下げてから株式譲渡を画策する中小企業経営者が稀にいるが、粉飾決算は犯罪行為なので絶対に手を出してはならない。
(この記事は2016年7月に執筆掲載しました)