銀行融資が絡んだコンサルティング提案には危険が潜んでいる。
なぜなら、銀行員は金融業のスペシャリストであり、決して、会社経営のスペシャリストではないからだ。
この記事では、銀行のコンサルティングの危険性、並びに、銀行コンサルの失敗事例について、詳しく解説する。
銀行は、お金を貸して利息を得たり、支払決済の手数料を得たり、預金の運用益を得たり、或いは、融資ノウハウや返済スキームの立案など等、様々なお金を扱う金融業だ。
従って、銀行が融資とセットで持ちかける新規事業のコンサル提案など等、金融商品以外の提案には、常に危険が潜んでいると思った方がよい。
そもそも、銀行には会社経営のノウハウがないし、会社の経営責任を背負う覚悟も義務もない。(それがあれば、不良債権など発生しないだろう)
融資、預金、決済等々、中小企業に限らず全ての会社は銀行と何らかの縁を持っているが、この中で、銀行融資は、吉とでることもあれば凶とでることもある危険な分野になる。
例えば、会社創業、新規事業、設備投資、運転資金等々、一定の資金需要が発生した場合に、銀行融資に助けられた中小企業は多いと思うが、
一方で、銀行のコンサル提案を鵜呑みにして融資を受け入れた結果、その事業が想定通りに行かず、多額の利息支払いと元本返済に苦しんでいる中小企業も多いと思う。また、銀行の過度な融資攻勢を受け入れた結果、借入限度額を超えてしまい、返済に苦しんでいる中小企業も少なくない。
銀行のコンサル提案を鵜呑みにして、多額の融資を受け入れた中小企業の失敗事例を紹介する。
仮にA社、B社、C社とするが、この3社はわたしが過去に再建に関わった中小企業だ。3社とも年商50億円程度の中小企業だが、赤字経営に陥り、返済できる見込みがないほどに銀行からの借入金が膨れ上がっていた。
以下の数字は、再建前の利益水準と借入金残高だ。
A社:経常利益▲8千万円,借入金8億円
B社:経常利益▲7千万円,借入金10億円
C社:経常利益▲2千万円,借入金12億円
借金はすべて銀行のコンサルティングに乗って受けた融資である。
銀行からの融資金を元手に新規事業を開始するも大失敗に終わり、本業の黒字を食いつぶし、大赤字に転落していた。
その後も、銀行コンサルの計画通りには収益が上がらず、やっとの思いで会社が生み出した利益も、利息と元本返済で銀行に吸い取られていた。
まさに銀行の奴隷状態で、これでは自分のために働いているのか、銀行のために働いているのか、分からない状況である。
3社に共通するのは、銀行融資をきっかけに新規事業に手を出し、その事業がきっかけで大赤字になってしまった、という構図である。
なぜ、銀行コンサルが失敗するのか?
それは、新規事業等に関連する銀行融資の返済担保が、将来の事業収支よりも、現預金や不動産等の純資産に偏っているからだ。
最悪、不良債権化しても、担保化している純資産を売却することで融資金の回収ができる見込みがあれば、収支計画が甘くても、融資が下りる場合がある。
また、銀行には融資残高や新規契約等々のノルマがあるので、ノルマ達成のためにお金を借りてくれそうな経営者にコンサル的な営業トークで迫り、融資を持ち掛けるケースも珍しくない。
資金にゆとりができた時に事業を拡大することは決して悪いことではないが、新規事業の成功には様々な要素が絡み合っている。少なくとも、会社経営の素人である銀行のコンサル提案を鵜呑みにして、安易に新規事業に手を出すのは危険な経営判断といえる。
※ ちなみに前章で挙げた3社は、私が企業再建に関わり黒字経営(健全経営)にV字回復している
銀行コンサルの失敗リスクを払拭するには、常にこちらが主導権を握ることが肝要になる。
例えば、銀行から融資を引っ張るのであれば、銀行主導ではなく、こちらが主導権を握るために、全ての事業責任を背負って、事業計画と返済計画を作成する覚悟が必要だ。
事業の成功に関わる様々なリサーチを行い、万全なリスク分析を行ったうえで整合性のある新規事業計画と返済計画を作り、融資交渉に臨む姿勢が重要で、借りたお金を絶対返すという心構えも欠かせない。
当然ながら、新規事業の計画等を銀行のコンサル担当に丸投げすると、銀行に都合の良い内容に誘導され、いつまでたっても主導権を握ることはできない。
会社経営の原則は「自力本願」である。つまり、失敗しても銀行が助けてくれるわけはなく、自分で自分を助けるしか道がない、ということだ。
新規事業の成功率は極めて低く、特に資本力の乏しい中小企業は、トライ&エラーを繰り返し、小さな規模から事業を大きくする方法が正攻法になる。
銀行のコンサルティングに頼るのではなく、経営者自身が主導権を握り、重要な経営判断ほど、銀行任せにしないことが大切だ。
(この記事は2016年6月に執筆掲載しました)