運転資金とは、経営を行うにあたって必要な資金(現預金)のことだ。回転資金とも云われ、資金繰りの管理に用いる経営指標になる。
運転資金が無くなると事業活動が機能不全に陥り会社が倒産するので、運転資金は極めて重要な経営指標になる。
この記事では、運転資金の計算方法と適正水準(目安)、並びに、実践的な必要運転資金の計算方法について、詳しく解説する。
運転資金とは、事業活動を円滑に進めるための必要な資金(現預金)のことだ。
会社経営は運転資金が無くなると同時に破綻するので、運転資金は資金繰りの管理に欠かせない極めて重要な指標になる。
運転資金は安定経営の要といっても過言ではなく、例えば、日頃から運転資金の必要水準を把握し、余裕を持って必要な運転資金を確保する姿勢は、安定経営の絶対条件になる。
また、必要運転資金の管理が盤石であれば、自然とコストコントロールがシビアになるので赤字経営に転落するリスクが低くなる。
逆に、必要運転資金の管理が杜撰だと、コスト意識と利益意識が低下するので、企業の衰退リスクが高まる一方になる。
運転資金は、売上を作るための必要コストの支払いに充当する資金になるが、その種類は多岐にわたる。
売上を作るために経常的に発生する運転資金に限らず、業績悪化時、或いは、急成長時に必要になる運転資金、成長投資の際の運転資など等、様々ある。主だった運転資金の種類を以下に紹介する。
正常運転資金(経常運転資金)とは、経常的に発生するコストの支払い資金(原資)のことで、正常な事業活動を支える重要な運転資金になる。正常運転資金の対象は、商品の仕入れ、商品の製造原価(材料費・労務費・製造経費等)など等の売上原価、並びに、人件費、家賃、水道光熱費など等、経常的に支払いが発生する販売管理費が対象になる。
増加運転資金とは、売上のプラス成長に伴い発生する増加コストの支払い資金(原資)のことで、売上増加に対応する仕入れコストや変動費コストが対象になる。増加運転資金の手当てが不十分だと資金繰りが悪化し、経営破たんのリスクが高まるので、重要な資金になる。
減少運転資金とは、売上のマイナス成長に伴い発生する資金補填のことで、収入減に伴い困窮する仕入れコストや変動費コストの支払い補填が対象になる。赤字補填の運転資金と同様、手当が遅れると資金繰りが悪化し、経営破たんのリスクが高まる。
スポット運転資金とは、一過性のコストの支払い資金(原資)のことで、企業の成長投資を支える重要な運転資金になる。スポット運転資金の対象は、設備投資、大規模修繕、大規模保守保全、開発投資、新規事業投資など等の成長投資が対象になる。
運転資金が不足するとどうなるのか?
運転資金が不足すると、商品の仕入れや支払いに支障がでて、事業活動が機能不全に陥る。
また、必要な運転資金が枯渇気味になると経費の支払いも停滞するので、水道や電気がストップする、事務所の立ち退きを請求される、など等、事業活動に支障をきたす不都合が沢山でてくる。
当然ながら、不足した運転資金の補填(金融機関からの借入・自己資本の投入等)を速やかに実行しないと、経営破たんのリスクが高まる一方になり、最悪、会社が倒産することになる。
運転資金の計算方法と適正水準について解説する。
運転資金は、売掛金や受取手形等の売上債権に棚卸資産を加算し、買掛金や支払手形等の仕入債務を引くことで計算できる。
簡単に言うと、売上を作るための資産(売上債権+棚卸資産)を回転させるための総コストが運転資金になる。運転資金が回転資金と云われる所以はココにある。
運転資金=〔売上債権(売掛金+受取手形等)+棚卸資産〕-仕入債務(買掛金+支払手形等)
運転資金<現預金残高
以上が、一般的な運転資金の計算式と適正水準になるが、売上と仕入の債権債務をベースに計算するので、不良性の売上債権や棚卸資産が混入すると計算結果が不正確になることがある。
また、貸借対照表の残高金額から計算するため、現時点(過去)における運転資金の必要金額しか計算できない。
こうした問題を解消するために、不良性資産を除外し、更に、売上成長率を加味すると、運転資金の計算精度が上がる。成長率を加味するだけで増加運転資金の計算も可能になる。
平均月商を用いた運転資金の計算方法について解説する。
前章で解説した運転資金の計算方法は、貸借対照表の残高が基準になるので、季節変動や特需等で残高が大きく増減すると、運転資金の計算結果も大きく増減し、整合性のない計算結果を招く場合がある。
そこで、運転資金の計算に用いる指標(売上債権・仕入債務)を平均月商で計算する方法がある。それぞれの計算式を以下に紹介する。
実践的な必要運転資金の計算方法について解説する。
前章まで一般的な運転資金の計算式と適正水準を解説してきたが、現時点(過去)における運転資金、不良性資産が混入すると不正確な計算結果が出る、売上債権や仕入債務が発生しない会社の運転資金の計算ができない、など等、実践的な必要運転資金が計算できないデメリットがある。
そこで、より実践的で、実際の会社経営に必要な運転資金が計算できる方法を紹介する。計算はシンプルで、単純に売上から、現金流出のない「減価償却費」と「経常利益(内部留保)」を引く方法で求める。
必要運転資金=売上-(減価償却費+経常利益)
※月商に波がある場合は、過去12か月間の平均月商で計算する(減価償却費、経常利益含む)
例えば、月商1億円・減価償却費0.1億円・経常利益0.1億円であれば「1億円-(0.1億円+0.1億円)=必要運転資金0.8億円」となる。
この計算で求めた必要運転資金が、外部に流失する現預金、つまり実質的な運転資金になる。普通の会社は、売上入金や支払いサイトが一定なので、概ね、この計算で必要運転資金の実態が把握できる。
実践的な必要運転資金の適正水準について解説する。
中小企業の必要運転資金の適正水準は、現金商売や掛売り商売など、業種業態によって多少前後するが概ね下記の通りになる。
必要運転資金の計算結果の3倍以上の現預金があれば優良水準といえる。成長投資に回す余剰資金や、経営悪化に備える余剰資金も十分に貯蓄することができる。
必要運転資金の計算結果の2倍以上の現預金があれば標準水準といえる。この水準の運転資金をキープしていれば、資金繰りに窮することはない。但し、成長投資に回す余剰資金や、経営悪化に備える余剰資金の貯蓄は余裕を持ってできない。
必要運転資金の計算結果の1.5倍以下の現預金残高は危険水準になる。運転資金が枯渇気味で、その月の支払いが終わると、手元には月商の半分も残高が残っていない状況になる。この危険水準で経営を続けると自転車操業に陥るリスクが高まり、万が一、自転車操業に陥ると資金繰りに窮して、最悪、倒産することもあり得る。
会社経営を長く続けていると必ず逆境がやってくる。
当然ながら、逆境がやってきた時に、手元に十分な余剰資金が無ければ、運転資金がすぐに枯渇してしまい、経営が破たんする。
中小企業は資金の調達方法に限りがあるので、出来れば、自前で一定の余剰資金を貯蓄しておいた方が安全だ。
それでは一体、どの程度の余剰資金があれば逆境を乗り越えることができるか?
中小企業の余剰資金の計算方法は色々なアプローチがあるが、売上が20%ダウンしても1年間は持ち堪えることのできる水準が安全ラインである。
計算式は、「年商×売上総利益率×20%=適正な余剰資金」で求めることができる。
例えば、年商が5億円で売上総利益率が50%であれば、5億×50%×20%=5千万円が適正な余剰資金になる。
事業活動に必要な運転資金に加えて、逆境に備えた余剰資金が手元にあれば、経営が大きく傾くリスクは限りなく小さくなる。
なぜなら、急激な経済変動や不慮の事故など等、よほどのことがない限りは、売上が20%も減少することはないからだ。
売上が20%落ちても1年間経営が続けられる余剰資金が手元にあれば、様々な逆境に打ち克つ経営が実践できる。例えば、売上が激減したとしても、1年間の運転資金(余剰資金含め)が手元にあれば、経営改革を断行し、経営を正常化させることができる。
資金調達手段が限られている中小企業は、逆境に陥ってから1年分の運転資金を確保するが難しい。逆境に陥る前に1年分の運転資金を確保しておくことが大切になる。
運転資金に無頓着な会社は高い確率で経営に失敗します。また、運転資金の管理と共に、現金回収の管理を厳格に行うことも忘れないでください。現金回収の意識が低下すると、必ず、資金繰りが悪化します。最悪、黒字倒産という結末もありますので、十分に注意してください。
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