経費率とは、収入に対する経費の構成比率のことである。
経費率は、会社の収入に対するコストバランスを示す経営指標だが、会社経営は収入以下のコストで運営することによってはじめて成り立つので、経費率ほど重要な経営指標はない。
当然ながら、収入以上の経費をかけてビジネスを続けていては、何れ会社が倒産してしまう。従って、中小企業経営者が安定経営を目指すのであれば、然るべきコスト目標を立てて、適正な経費水準を維持することが欠かせない。
この記事では、経費率の計算式と適正水準(目安)について、詳しく解説する。
経費率は、会社の収入に対する経費の構成比率のことである。
会社の収入には、売上と売上総利益(粗利)のふたつの収入があるため、経費率の計算方法も二通りに分かれる。
それぞれの計算方法(求め方)は下記の通りである。
売上高経費率=(経費÷売上)×100
売上総利益高経費率=(経費÷売上総利益)×100
例えば、売上1,000万円、売上総利益500万円、経費400万円、営業利益100万円だった場合の経費率は下記の通りになる。
売上高経費率=(400÷1,000)×100=40%
売上総利益高経費率=(400÷500)×100=80%
会社経営の本質は最小のコストで最大の利益を上げるところにあるので、経営者の行動原理を明快にするコスト目標ほど重要なものはない。
会社のコストコントロールがうまくいかずに衰退の一途を辿る中小企業などは、コスト目標がない、或いは、誤ったコスト目標を掲げているケースが多い。
安定経営を実現するには、然るべき会社のコスト目標、或いは、目指すべき経費率の目標が不可欠なのだ。
経費率は、会社の経費管理、或いは、コストコントロールに不可欠な指標だ。
当然ながら、確かな指標なしに、経費の正しい管理も、コストコントロールもできるものではない。
会社の経費が適正に保たれているのか?
そもそも、会社の経費バランスの適正な水準はあるのか?
など等、経費率のコントロールに悩みを抱えている中小企業経営者は多いと思うが、一般的には、経費率の計算式は「(経費÷売上)×100」で求めている会社が多い。
しかし、この計算式だと売上に占める経費の構成比率は計算できるが、適正指標や目標として活用しにくいというデメリットがある。
どういう事かというと、経費を賄う収益の源泉は、売上ではなく、売上総利益(粗利)だからである。
売上=売上総利益(粗利)という収入構造の会社であれば問題はないが、売上総利益の水準は、業種業態、或いは、同じ会社であっても部門が違えば変わってしまうことがある。
当然ながら、売上総利益の水準が変化すると、合理的且つ公平なコスト目標として活用しにくいというデメリットが生じてしまう。
売上高経費率のデメリットについて、次の例で説明する。
例えば、会社内に、売上1,000万円のA事業部とB事業部という部門があったとする。
A事業部は、売上1,000万円に対して粗利が1,000万円(粗利率100%)で経費が500万円、
B事業部は、売上1,000万円に対して粗利が500万円(粗利率50%)で経費が250万円だとする。
この場合、それぞれ事業部の売上高経費率は、以下の通りになる。
A事業部:(経費500万円÷売上1,000万円)×100=経費率50%
B事業部:(経費250万円÷売上1,000万円)×100=経費率25%
A事業部50%>B事業部25%となるが、経費率が低いB事業部の方が経営状態が良好とは断定できない。
また、A事業部とB事業部、お互いのコスト目標となる経費率を掲げようと思っても、双方が納得する合理的なコスト目標を掲げることの難しさも残る。
売上高経費率には、公平なコスト水準の測定だけでなく、合理的かつ公平なコスト目標も立てることができないデメリットがあるのだ。
正しいコスト管理、或いは、正しいコスト目標に適している指標は、売上総利益高経費率になる。
なぜなら、前章で解説した売上高経費率のような不公平感が解消されて、公平なコスト水準の測定と共に、合理的かつ公平なコスト目標を立てることができるからだ。
例えば、前章のケース例を用いて「売上総利益高経費率」を計算すると下表の通りになる。
A事業部:(経費500万円÷売上総利益1,000万円)×100=経費率50%
B事業部:(経費250万円÷売上総利益500万円)×100=経費率50%
ご覧の通り、経費の構成比率を算定する際の分母を「売上」から「売上総利益」に置き換えるだけで、A事業部50%=B事業部50%、経費率が両事業部一緒になった。
つまり、会社の儲けである売上総利益(粗利)に対する経費の占める割合は両事業部一緒だったということだ。
これであれば、両事業部の成績(コスト優位性)がイーブンであることを合理的に示すことができる。また、経費率の改善も、共通の指標を持って取り組むことが可能になる。
公平なコスト水準の測定と共に、合理的かつ公平なコスト目標を立てるには「売上総利益高経費率」が最も適しているのだ。
中小企業の売上総利益高経費率の適正水準(目安)は下表の通りである。
経費率が80%以下であれば優良水準である。
経費率が90%以下であれば標準水準である。
経費率が100%以下であれば改善の余地がある。
経費率が100以上であれば、危険水準である。収益以上の経費がかかっている状態、いわゆる赤字経営に陥っているため、早急に経費を削減するなどして、経費率を100%以下に抑える改革が必要だ。
続いて、経費バランスの適正目安について解説する。
経費バランスは、殆どの会社にとっての最大経費である人件費と人件費以外の経費を分解して考えると分かりやすい。
下表は、経費バランスの標準ラインを示したものになる。売上総利益「100」に対して、経費率を標準の「90」として、その「90」を人件費と人件費以外の経費に分解している。
売上総利益 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
---|---|---|---|---|---|
経費合計 |
90 |
90 |
90 |
90 |
90 |
人件費 |
70 |
60 |
50 |
40 |
30 |
人件費以外 |
20 |
30 |
40 |
50 |
60 |
営業利益 |
10 |
10 |
10 |
10 |
10 |
経費率 |
90% |
90% |
90% |
90% |
90% |
人件費率 |
70% |
60% |
50% |
40% |
30% |
人件費以外率 |
20% |
30% |
40% |
50% |
60% |
標準ラインの経費率90%に対して、人件費率の適正水準(目安)は、業種業態によって異なるが、概ね30%~70%の範囲内に収まる。
一般的には、労働集約型の業種(例:コールセンター)は人件費率が高くなり、資本集約型の業種(例:無人化が進んでいる工場)は人件費率が低くなる。
会社の経費バランスの適正目安が分かれば、効果的なコストコントロールが可能になるので、会社の生産性改善を効率的に進めることができる。
また、売上が増加傾向にあり、なお且つ、経費バランスの水準が標準を上回ると、会社の成長基盤はますます盤石になる。
【関連記事】人件費率の計算式と適正水準、並びに、業界平均と業種別の目安
中小企業が経費率を活用してコスト改善する際の目標設定と改善プロセスは以下の手順で進める。
会社の損益計算書から、売上総利益、経費合計、人件費、人件費以外の経費、営業利益を抽出し、売上総利益高経費率等を求める。売上総利益高経費率等の計算式は下記の通りである。
経費率=(経費合計÷売上総利益)×100
人件費率=(人件費÷売上総利益)×100
人件費以外の経費率=(人件費以外の経費÷売上総利益)×100
営業利益率=(営業利益÷売上総利益)×100
会社の経費率等が前章で解説した標準水準表のどの水準に位置するかを判定する。下表は実績と改善目標の例である。
実績(例) |
適正水準 |
改善目標 |
|
---|---|---|---|
売上総利益 |
100 |
100 |
- |
経費合計 |
97 |
90 |
△7 |
人件費 |
55 |
50 |
△5 |
人件費以外 |
42 |
40 |
△2 |
営業利益 |
3 |
10 |
+7 |
経費率 |
97% |
90% |
△7% |
人件費率 |
55% |
50% |
△5% |
人件費以外率 |
42% |
40% |
△2% |
会社の経費率等の実績と適正水準が判明したら、経営改善の数値目標を計算する。それぞれの計算式は下記の通りである。
経費削減目標=適正水準-実績
人件費削減目標=適正水準-実績
人件費以外の経費削減目標=適正水準-実績
営業利益目標=人件費の削減目標+人件費以外の経費の削減目標
上記の通り、経費率等の適正水準が分かれば明確なコスト改善目標を掲げることができるので、経営改善のスピードが格段に上がる。
何といっても、会社を経営するうえで目標ほど重要な要素を持っているものはない。なぜなら、確かな目標がなければ、何をすべきかが曖昧になり、効率的に経営改善を進めることができないからだ。
勘と経験に頼った会社経営ではひとつの判断ミスで会社が傾くリスクがある。安定経営を目指すのであれば、正しい目標が欠かせないのだ。
経費率は、一般的には売上の構成比で求める。
しかし、本記事で解説した通り、売上の構成比で求める経費率は、業種業態によっては合理性が崩れ、経営判断の根拠になり得ないことが起こる。
中小企業の経費率は、どんな業種業態でも合理性が保て、且つ、正しい根拠になり得る、売上総利益の構成比で求めるのが正しい判断になる。
「売上総利益高経費率」をモニタリングしていれば、経費バランスを保つための適切なコストコントロールが可能になる。
多くの経営指標は、経営学や会計学、或いは簿記論や税法等の学術理論に則り運用されているケースが多いが、学術理論を鵜呑みにするのは危険な判断だ。
何事も基本は大事だが、学術理論に振り回されて、会社経営に有効活用できない経営指標を使っていては意味がない。
自分の会社経営を助ける経営指標は、経営者の創意工夫で生み出し、独自運用することが安定経営を実現する秘訣でもある。
上手なコストコントロールは、経費率を把握することから始まります。そのうえで然るべき目標を立てて、その目標を基準にコストをコントロールすることが成功の秘訣です。会社経営は売上以下の経費で運営しなければ破綻するので、経費率の推移を常にモニタリングすることを忘れないでください。