横領されない管理体制の作り方|社員を横領や着服から守る術

 

横領は犯罪だ。加害者は処罰を受け、被害者は損失をこうむる。

 

しかも、横領は、会社の大小関係なく、いつでも、どこでも起こり得る身近な犯罪だ。

 

この記事では、横領されない管理体制の作り方、並びに、社員を横領や着服から守る術について、詳しく解説する。

 

 

横領・着服とは

 

横領とは、他人の占有物を自己の物として処分する犯罪だ。 刑法で罪に処され、5年以下の懲役という処罰もある。

 

法律用語の横領に対して、一般用語の着服という表現もあるが、横領も着服も「他人の財物を自分のものにすること」を指し、基本的には同義だ。

 

いつの時代も、個人も法人も、規模の大小関係なく、横領は絶えない。

 

数千万円や数億円単位の事件だけが横領ではない。

 

世間的には認知されていない少額の横領、あるいは、会社の商品・備品・燃料・備蓄財等を拝借したり、立替経費を少し上乗せ請求したり、会社のマイルやポイントを個人転用したりするのも、厳密に言えば横領だ。

 

つまり、横領はどんな会社にも日常的に起こり得る、さらには、経営幹部や経理担当者だけではなく、多くの社員が加害者になり得る身近な犯罪と言えるのだ。

 

横領はなぜ起こるのか?

 

横領が絶えない理由は簡単だ。

 

人間は欲に負ける生き物なので、目の前の財産を自由に処分できる立場にあれば、どんなに清廉潔癖な人物であっても魔が差して横領することが起こり得る。

 

つまり、人間の欲に対する抑止力が低下するほど、横領のリスクが高まるのだ。

 

横領のリスクを抑えるには、人間の欲に対する抑止力を高める必要があるが、以下のような対策は有効だ。

  • 経営者自身が公私の分別を徹底する
  • 銀行ネット操作の承認は経営者が行う
  • 現預金の支払承認は必ず経営者が行う
  • 商品の棚卸や備品等の現物チェックを定期的に行う
  • 現預金の入出金や出納帳は経営者がWチェックする
  • 財務諸表(貸借対照表と損益計算書)を毎月チェックする
  • 入金用、出金用、積立用、給与支払用など、用途別に預金口座を分ける

以上の対策は、物理的にも心理的にも抑止効果があるため、関係者が横領に手を染めるリスクを引き下げる。

 

お金を目の前にすると、どんな信頼関係もぜい弱になる。信頼に頼るのではなく、信頼が壊れないように、お金の管理を徹底することが何よりも大切だ。

 

とかくお金の管理に関しては、丸投げ、責任放棄は厳禁だ。経営者の仕事として、真剣にお金を守ることが、社員を守ることに繋がることを肝に銘じてほしい。

 

横領する人の心理と末路

 

最後に、横領する人の心理と末路について、解説する。

 

横領するのは単にお金に困っている、遊ぶお金が欲しいだけでなく、給料への不満から横領するケースもある。

 

例えば、仕事の知見・能力・スキル等が十分についてきて、一人前に仕事ができるようになったにも関わらず、長年、給与が上がらないと、横領に手を染めるリスクが高まる。

 

仕事をさぼる、労働時間を私的に使う、経費を水増し請求する、商品・備品・備蓄品を拝借する等、給与以上に働いた分をどこかで取り返し、帳尻を合わせようとする行動は典型だ。

 

こうした心理状態に陥ることはけっして珍しい事ではないが、なるべく早くやめた方が良い。次第に、自分の給与以上の働きができなくなり、まったく成長できなくなるからだ。当然、周囲からの評価も下がり、ますます給料が上がらなくなる。

 

人生は等価交換だ。苦労した分だけ、豊かさが大きくなるように、プラスもマイナスも何れイーブンになる。

 

横領すれば、その分だけ、将来のプラスは無くなる。金銭的なマイナスの制裁を受けるだけでなく、信頼が失墜し、再度浮上することが困難になることもあり得る。

 

こう考えれば、横領することが如何に割に合わない事か分かるだろう。

 

横領や着服は誰の為にもならない所業だ。会社側の対策も重要ではあるが、最後は自分のモラルが砦になることを忘れないでほしい。

 

(この記事は2025年1月に執筆掲載しました)

 

筆者プロフィール

ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」