
数字は、経営判断の客観的な根拠になる。
しかし、数字の読み方を勘違いしたり、経営を誤らせる危険な思い込みがあったりすると、大きな失敗を招くことがある。
この記事では、社長がやってはいけない数字の勘違い10選について、詳しく解説する。

売上が増えれば利益も増えるは大きな誤解だ。
売上と共に増えるコストの増加具合によっては、利益が減少するからだ。
例えば、仕入値80円の商品を「10円のコスト」をかけて100円で売れば利益が10円残る。
この10円のコストが一定であれば売るほどに利益が増えるが、コストが1.5倍に増えると2倍の量を売っても利益は横ばい、コストが2倍に増えると何個売っても利益が残らず、コストが2倍を超えると売るほどに損失(赤字)が増えることになる。
会社経営を長くしていると、売上が増えても利益が横ばい、あるいは、売上が増えても利益が減少するケースに陥ることは珍しくないが、普段から利益の減少に目が届いていれば衰退リスクが膨らむ前に手を打てる。
しかし、万が一「売上が増えれば利益も増える」という誤解が前提にあると、利益の減少に気が付かず、気がついたら時すでに遅しというパターンに陥ることもある。
売上増加=利益増加という関係は簡単に成立するものではない。採算割れの売上を捨てると、売上減少=利益増加という関係が成立するように、売上と利益の関係性を正確に把握するには、売上と利益の間にあるコストに着目しなければならない。

人件費は、殆どの会社にとっての最大コストになる。
しかし、人件費は削ればいい、という考えは危険な勘違いだ。人件費削減の失敗リスクは想像以上に大きいからだ。
事業は人なり、という言葉の通り、ビジネスはヒトで始まり、ヒトで終わる。
そのヒトのパフォーマンスを著しく低下させる報酬カットやリストラ等の人件費削減は、間違いなく衰退リスクを大きくする。
社員の離職やモチベーションの低下を誘発し、人員不足や人財不足に悩まされる、不安定な経営に陥るパターンは典型だ。
人件費は削ればいいというものではなく、いかなる時も削らなくて済むように、日頃から社員を育て、活躍の場を作り、ヒトのパフォーマンスを最大化する意識を持つことが大切だ。
もちろん、人件費を適度にコントロールする必要はあるので、労働生産性の向上は欠かせない。
例えば、残業を減らすための働き方の改善や最新の設備やテクノロジーを導入し労働量を減らす等はヒトへの労働負担やストレス負荷を減らす効果があるので有効だ。また、企業の付加価値を研鑽し、収益力を高め、新たに獲得した利益を人件費に還元する意識も大切だ。
これらの取り組みは、ヒトのパフォーマンスを着実に高め、人件費の売上を作る力を格段に引き上げる。人件費が増えるほど、売上と利益が増える会社ほど、こうした取り組みがしっかり定着している。

銀行は利益だけを見て、企業を評価しているわけではない。
利益も重要な指標の一つではあるが、それよりも重要視しているのは資産状況(貸借対照表)だ。
利益は一定期間の会社の成績でしかない。今年は黒字かも知れないが、来年は赤字になるかも知れない。だから銀行は利益だけを見てお金を貸すことはしない。
利益よりも見られるのは資産状況、つまり、貸借対照表に載っている資産と負債の状況だ。
貸借対照表には創業から現在までの経営成績の蓄積が表れる。一定期間の会社の成績しか表れない損益計算書よりも、経営の良し悪しを判断できる情報がより多く詰まっている。
創業から現在までの利益の蓄積だけでなく、お金の使い道、お金の出所、お金の余裕に至るまで、お金を貸すに値する会社か否かを判断するのに十分な情報が含まれている。
たくさん利益を出しているのに銀行からたくさんお金を借りられない会社は、間違いなく、貸借対照表の成績が悪い。負債過多、資本欠損、債務超過等は典型だ。
小さな会社ほど資金調達の手段が銀行などの金融機関に限定されるので、銀行は利益だけを見ているという間違いは、社長がやってはいけない勘違いの最たる例といえる。

最後に、経営判断を誤らせる典型的な数字の誤解を解説する。
以下、社長がやってはいけない数字の勘違い10選を紹介する。
前章で解説した通り、売上が増えても、利益が減るパターンもある。売上と利益をセットで見る意識が大切だ。
前章で解説した通り、人件費は削ればいいものではない。人件費は相当繊細に取り扱わないと衰退リスクが高まる。
前章で解説した通り、銀行は利益だけを見ているわけではない。利益も見るが、それよりも重視ししているのは資産状況(貸借対照表)だ。
借金はしない方が良いは、勘違いだ。借金は資金と投資の効率を高め、会社の繁栄スピードを加速するからだ。例えば、1千万円の利益を成長投資に回す会社と、1千万円の利益を担保に1億円の借金をして成長投資を推進する会社、両者を比べた場合、繁栄が加速するのは後者だ。借金は悪ではなく、繁栄の必然といった一面もあるのだ。
利益率が高ければ会社経営は安泰と思う経営者は少なくないと思うが、いくら利益率が高くても、利益の額が小さいと経営はなかなか安定しない。一定の利益の金額に達するまでは、率と金額の両面を目標に掲げると良い。
利益が出ていれば会社は倒産しないは、大きな勘違いだ。会社倒産に直結する大きな要因は利益の増減ではなく、現金の増減だからだ。たとえ、たくさんの利益を出していたとしても、手元の現金がなくなってしまえば、会社経営は簡単に破綻する。逆に、利益が出ていなくても、借入や身銭で現金を補填すれば会社経営はいつまでも続く。
利益が増えれば現金も増えるは、最も危険な勘違いだ。なぜなら、利益と現金は殆ど動きが一致しないからだ。完全現金商売ならいざ知らず、殆どの会社は信用取引(売掛金、買掛金等)だ。売上は回収して初めて現金が増えるし、仕入は支払って初めて現金が減る。利益と現金の動きは会社が大きくなるにつれて複雑になるが、管理がおざなりになると黒字倒産(利益はあるのに現金がなくなる状況)という悲劇を生むこともあるので注意が必要だ。
人件費同様、コストは削ればいい、というものではない。コストは削るものではなく、売上を作るために積極的に使うものだ。削るのではなく、ダイナミックに事業領域にコストをぶつけるからこそ、大きな売上が返ってくるのだ。コストを削るという発想ではなく、コストの費用対効果を高めるという発想が重要で、特に上位コストの費用対効果が高まると、大きな売上と利益に恵まれるようになる。
業界平均を目指せば会社が良くなるは大きな誤解だ。なぜなら、業界平均は僅かなトップ集団企業の数字を沢山の下位集団企業が足を引っ張る構図で計算されるからだ。業界平均を目指しても、中流集団に追いつく見込みはなく、ましてやトップ集団に追い付くことなど夢のまた夢だ。会社を良くしたいのであれば自分の数字を超える努力を地道に続けるのが一番確実だ。自分に勝ち続ける企業が、業界のトップの座に近づくのだ。
利益は節税で減らした方が良いは誤解がある。例えば、節税のために事業に関連のない土地建物、車両等の固定資産、利益の繰り延べにしかならない保険商品等を購入し、利益を圧縮したとしても、長い見れば競争力の低下を招き、将来獲得利益は間違いなく減少する。節税ばかりに気を取られるのではなく、成長投資を含む事業活動に関連する全ての費用をしっかり計上し、適正な利益を毎期算定し、税金を納め、着実に体力(内部留保)をつけた方が繁栄の基盤は盤石になる。
ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」