
採用活動はすべての会社に関わる必須業務だ。
採用コストが上昇すると、会社の利益が圧迫され、競争力が低下するので、しっかり抑えたい経営指標だ。
この記事では、社長が知るべき採用の経済学と題して、採用コスト、定着率、生産性の関係について、詳しく解説する。

採用コストの計算方法について解説する。
採用コストは、人財を採用するために一定期間に費やしたコストを累積すると計算できる。
期間設定は、会社の会計年度と同様、一年間で区切ると分かり易い。
例えば、一年間に2名の人財を採用したとする。その2名を採用するために費やしたコストの累積が100万円であれば、会社の採用コストは100万円、一名当たりの採用コストは50万円/名になる。
採用コストは、広告費用、紹介費用、説明会や面接費用、それらに付随する諸費用等、すべてを集計する。
なお、採用コストは経済指標の一つの求人倍率(求人企業数÷求人者数)と相関がある。
求人倍率が1の場合は、求人企業と求人者が同数で見合っているので、双方の労力やコストは過不足ないバランスが取れる。
求人倍率が0.99以下の場合は、求人企業数より求人者数の方が多いので、求人者は就職難に陥り、就職の労力とコストが上がる。一方の企業は採用し易くなるので、採用コストが下がる。
求人倍率が1.01以上の場合は、求人企業数より求人者数の方が少ないので、求人企業は採用難に陥り、採用の労力とコストが上がる。一方の求人者は企業に就職し易くなるので、就職コストが下がる。
このように、採用コストは景気の動向によって増減する側面があるが、
大切なことは、どんな時代であってもこの会社で働きたいと思わせる強みや環境を追求する姿勢を持ち続けることだ。採用コストが低い会社ほどそうした姿勢を強烈に持っている。

早期退職が会社に与える損失について解説する。
早期退職に伴う会社の最たる損失は、採用コストが無駄になり、さらに会社の生産性が著しく悪化することだ。
採用コストの無駄は目に見える損失なので分かり易いが、じつは生産性の悪化という目に見えない損失の方が大きく、会社に与えるダメージもでかい。
例えば、早期退職することでそれまでに費やした採用と教育の労力やコストが無駄になる、早期退職者のフォローに回る社員達の労力やコストが無駄になる、人員が減少して生産性が悪化する等は典型だ。
さらに、早期退職者につられて辞める社員が現れると、会社の損失は加速度的に増え、衰退リスクも高まる。経営者や幹部層が現場のフォローに回らざる得なくなり、会社経営と社長業の精度が著しく悪化するからだ。
このように、早期退職者が会社に与える損失は極めて大きい。早期退職を防ぐために、相性の良い社員を採用することの重要性、会社への定着率を高めるための仕掛けがいかに重要かお分かりになるだろう。

生産性の高い人財の見極め方について解説する。
生産性の高い人財は「創造力」、「人望とモチベーション」、「ヒューマンスキル」の3つの指標を使うと見極められる。
創造力は、言われた仕事をやるのではなく、その仕事の課題や解決法を自主的に考える素養があるか否か。
人望とモチベーションは、人柄が良く、仕事に対するモチベーション、あるいは、仕事を通じて成長したい気持ちが高いか否か。
ヒューマンスキルは、純粋な素直さ、誠実さ、謙虚さ、胆力や求心力、責任感や決断力、信念や影響力など、人間的な魅力の源泉の種があるか否か。
以上、創造力、人望とモチベーション、ヒューマンスキルの高い人財は極めて高い生産性を発揮する。
しかも、何でも自主的、主体的に動くのでコストパフォーマンスが高く、会社経営のあらゆる面に多大な好影響をもたらす。
なお、何れのスキルも採用時点で多少の物足りなさがあっても、後天的に身に着けられるスキルなので、教育次第でいかようにもリカバリーできる。

最後に、人財の採用と教育の投資対効果について解説する。
人財の採用は企業の永続性を高め、人財の教育は定着率と生産性を高める。
人間には寿命があるので一定サイクルで人財は入れ替わる。また、一定の離職も必ずあるので、採用できない会社は企業の永続性に陰りがでる。
従って、一定期間、一定人数の人財の採用は、企業の永続性を確立するうえで欠かせない。
また、人財を採用すると、人員不足や人財不足に陥るリスクが解消されるので、健全な労働環境が維持される。労働環境の悪化は離職という悲劇を招くので、この点も採用の大きな効果といえる。
人財の教育は、定着率と生産性の向上に繋がるので大きな投資対効果がある。
例えば、この会社でキャリアが活かせる、あるいは、この会社でキャリアが伸ばせると思わせる環境や教育、フォローやサポート体制、
前章で解説した創造力、人望とモチベーション、ヒューマンスキルの3つのスキルの教育等は、定着率を高めるだけでなく、大きな投資対効果がある。
人件費は、殆どの会社で最も大きなコストになる。つまり、売上を作るために一番上手に使うべきコストが人件費ということだ。その人件費の最適化を図るうえで、人財の採用と教育は絶対に欠かせない要素になる。
(この記事は2026年1月に執筆掲載しました)
ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」