インセンティブ(incentive)とは、ある行動に向かわせるための刺激誘因のことで、主にある行動の成果に対して支払われる金銭的報酬のことをいう。
インセンティブ制度とは、企業が設定した目標を超えた場合に、通常の基本報酬とは別に支払われる報酬制度のことで、多くは、目標達成のための動機付けとして運用されている。
この記事では、インセンティブ制度の基本概要からインセンティブがモチベーションに与える影響、及び、インセンティブ制度の効果的活用法に至るまで、詳しく解説する。
インセンティブ制度の主な特徴は、仕事のプロセスではなく、仕事の結果(数値)だけを報酬支払いの評価対象にしている点にある。
インセンティブ制度の導入は投資銀行や外資系企業に多いが、日系企業であっても、営業職を対象に導入している事例がある。
例えば、会社側が設定した目標を達成した見返りに、その担当者に対して金銭や株式などのインセンティブが支払われることは良くあるケースだ。
インセンティブは、仕事の結果に対して直接的に報酬が支払われるので、社員の生産性やモチベーション、或いはパフォーマンスを高める効果があると云われていて、成果主義をメインに運用している企業には概ね適している。
インセンティブと似ている報酬制度に歩合制やボーナスがあるが、この二つは、報酬の性格も運用目的も違いがある。
インセンティブ制度と歩合制、並びに、インセンティブとボーナスとの違いについて、それぞれ詳しく解説する。
歩合制とは、1個販売当たり○○円というように、1個毎に報酬金額が設定される報酬制度で、分かりやすく例えると、報酬のバラ売りである。会社側としては、販売実績に関係なく1日分の人件費を固定で支払うより、販売実績に合わせて相応の人件費を細かく支払った方が都合よくコスト管理ができるメリットがある。
つまり、歩合制は、会社側の都合で設計された報酬制度であり、社員の生産性やモチベーション、或いはパフォーマンスを高めるために支払われるインセンティブとは性格も目的も全く違う報酬制度なのだ。
ちなみに、すべての報酬が歩合制で支払われる完全歩合制という報酬制度もあるが、労働者に対する賃金保障が労働基準法で定められているため、原則、一般社員に完全歩合制が導入されることはない。従って、完全歩合制の運用は、個人事業主や企業間に限られる。
ボーナスとは、会社の業績に応じて、通常の基本報酬とは別に支払われる全社員対象の臨時報酬制度である。会社の業績に応じて支払われる報酬金額に差は生じるものの、原則、同一部署、同一階級、同一役職であれば、支払われる報酬金額に大きな差は生じない。
ボーナスは、あくまで全社員(組織)の頑張りに報いる臨時報酬であり、個人成績を根拠に、個人に直接支払われるインセンティブとは報酬の性格も運用目的も違う。
中小企業において、インセンティブ(報酬)で社員のモチベーションを吊り上げる方法は有効か否か、そもそも効果はあるのか?
答えは、殆どない、或いは、短期的効果しか得られない、である。なぜなら、全社員がインセンティブを享受できる環境を作ることは不可能だからだ。
インセンティブは数値目標を対象にするので営業職に限定される。さらに、営業職のなかでも、インセンティブの恩恵に預かれるのは、上位2割の優秀なハイスペック人材に限られる。
従って、ほかの営業スタッフや、営業部隊を支えている経営部隊や管理部門のスタッフはインセンティブの恩恵に預かれず、インセンティブ制度が不平不満やモチベーション低下の原因になりかねない。
また、人間の金銭的欲望には際限がないので、インセンティブ(報酬)だけで社員のモチベーションを持続するのは、どだい無理がある。
そもそも、中小企業の社員で、インセンティブ(報酬)に不満を抱いている社員は稀だ。わたしの経験上、100人に1人いるかいないかのレベルである。
また、結果重視でプロセスを評価しないインセンティブ制度は、社員のモチベーションを低下させるだけでなく、以下のような弊害を招く恐れもある。
☑違法行為を招きやすい
☑社員のモラルが低下する
☑一部の社員がノウハウや情報を独占する
☑会社や社会のことを考えない、自己中心的な社員が増える
☑組織の一体感や協力体制が崩壊する
☑社員の気持ちがバラバラになり、組織のパフォーマンスが低下する
☑報酬に対する不平不満が溜まり、社員のモチベーションが低下する
インセンティブ制度を闇雲に導入すると様々な弊害を引き起こし、会社衰退のきっかけを作りかねない。
大切なのは、インセンティブの効果的活用法を理解し、上手な使い方をマスターすることだ。
先ず抑えるべき点は、社員の報酬設計においてはインセンティブ制度を導入しないということだ。
社員の報酬は、基本給とボーナスだけで設計した方が都合良く、中小企業の場合は、世間相場(地域相場)よりも報酬が少し多ければ、殆どの社員は報酬に大満足する。
そして、インセンティブ制度は、数値結果に対応する報酬として運用するのではなく、数値結果とはまったく無関係の領域で活用するのが効果的だ。
例えば、次のようなインセンティブ制度の活用は、社員のモチベーション向上や業績向上に一定の効果が期待できる。
☑読書を月○○冊達成で○○円のインセンティブ支給
☑地域活動1件参加毎に○○円のインセンティブ支給
☑ボランティア1件参加毎に○○円のインセンティブ支給
☑新商品アイデア月○○件達成で○○円のインセンティブ支給
☑経営改善提案を月○○件達成で○○円のインセンティブ支給
☑社員へのサンクスカード月○○件達成で○○円のインセンティブ支給
上記例は、一見して、すぐには会社の業績に結びつかないインセンティブ制度だが、長期的に運用することで社員教育の効果が得られ、最終的に、組織力と業績が向上する。
インセンティブ制度は活用次第で、一定の効果が期待できる報酬制度でもあるのだ。
インセンティブ制度とは、企業が設定した目標を超えた場合に、通常の基本報酬とは別に支払われる報酬制度のことである。
インセンティブ制度は、仕事のプロセスではなく、仕事の結果(数値)だけを報酬支払いの評価対象にしているので、短期間で結果が出るチームプロジェクトが多い投資銀行や外資系企業には向いているが、一般的な中小企業には不向きな報酬制度である。
例えば、インセンティブ制度を闇雲に導入すると様々な弊害を引き起こし、会社衰退のきっかけを作りかねない。
中小企業にインセンティブ制度を導入する場合は、経営改善提案やボランティア活動に対するインセンティブなど、数値結果とはまったく無関係の領域で活用するのが効果的だ。
中小企業においては、業績結果に対するインセンティブ制度は殆ど役立ちません。社員の報酬は世間相場より少し高めを実現し、人間力やビジネススキルの向上に役立つ行動に対してインセンティブ制度を運用した方が良いです。この場合のインセンティブは、金額が些少でも、図書カード等の景品でも効果的です。