根性論とは、近視眼的思考のことである。
例えば、根拠(実現性・再現性・合理性・環境・実力等)がどうであれ、根性さえあれば、どんな苦難や逆境も乗り越えられるという思考は典型といえる。
この記事では、根性論の起源、並びに、会社や仕事において、なぜ根性論が通用しないのかについて詳しく解説する。
わたしが社会人デビューしたのは、かれこれ25年も前になるが、その時代は「根性論」が当たり前の風景だった。
見て覚えろ、自分の頭で考えろ、言われる前に動け、やれば出来る、出来ないのは根性が足りないからだ、など等。
根性論をベースとした思考や教育姿勢が当たり前の世界で、それが出来なければゲンコツが飛んでくる。
当然ながら、根性のない新入社員はすぐに辞める。
私の場合は、地方の次男坊で帰る家がなかったのと、元々、根性(忍耐強さ)があるタイプだったので、極めて理不尽な環境ではあったが、今に見てろ根性の方が大きく上回り、難なく過ごすことができた。
スポーツの世界でも、根性論が当たり前にまかり通っていた時代だ。
体罰、暴言、絶対服従、うさぎ跳びや飲水禁止など、非論理的な指導が当たり前であり、強豪校ほど、そうした根性論が定着していたような気がする。
こうした根性論は、今でも社会のあちらこちらで存在しているわけだが、すぐに何とかハラスメントとしてペナルティを課せられる。
昔気質(根性論者)の人々からすると、ずいぶんと生きづらい世の中になったものである…。
根性論の起源については様々な見解がある。
例えば、武士道精神などは根性論の起源(原型)に近いと思える。しかし、広く世に定着するようになったのは、わたし私見では、戦争が分岐点になっているように感じる。
例えば、国民的スポーツである野球の世界には、戦前は根性論が無かった。
その証拠に、日本で最初に野球チームの監督になった飛田穂洲さんの教え子の回顧録には、「飛田監督が声を荒げるのを見たことがない」という記述がある。
飛田監督は、一球入魂の生みの親でもあるが、道具は自分で磨きなさい、授業に出て勉強しなさい、野球を通じて模範となるような人間になりなさいと説いた人だ。
根性論などかけらもない、まさに、野球道をゼロから創り上げた偉大な監督である。また、茶道、弓道、剣道など、江戸時代以前からある〇〇道の世界にも根性論はない。
何れも、相手を敬い、道徳心を持って、その道に真摯に向き合う姿勢が基本になっている。
戦後になると、戦前のマインドが一変する。
非合理な根性論に関しても、戦争以後に社会全体に蔓延した節がある。
例えば、欧米の兵士は鉄砲の玉が無くなる、戦況が劣勢になる、食料が尽きる等の事態に陥ると、すぐに降参して捕虜になったそうだ。いかにも欧米人らしい合理的な判断だが、日本の軍人は違った。
日本の軍人は、鉄砲の玉が無くなれば刀を抜いて一人でも多く倒すために死に物狂いで突撃する、戦況が劣勢でも命が尽きるまで戦う、食料が尽きても蛇やカエルを食べて生きながらえる、など等、欧米人の比にならないくらい、とんでもない根性を持っていた。
特攻隊などはその成れの果てであり、根性論(非合理)の極みである。恐らく、欧米人から見たら、日本人は恐ろしく怖い人種だったに違いない。
一億総玉砕と叫ばれた戦争末期には、学徒出陣や若者の職業軍人化が加速したが、そうした若者に根性論を刷り込んだのが戦争だったのではないかと思う。
この時の根性論が、そのまま社会に居座り、昨今まで引きずってしまったのではないか、というのが私の見解である。
事業は人なりの言葉通り、社員なくして、事業活動は成立しない。
そして、社員のモチベーションは、高いに越したことはなく、モチベーションが高い組織ほど、業績が好調だ。
そのモチベーションを上げる手段として、上から目線の根性論は全く役に立たない。むしろ、モチベーションを下げるきっかけにしかならない。
怒鳴っても何にも解決しないし、社員の自主性とヤル気も削がれる一方になる。
社員のモチベーションを上げるには、社員をコントロールしないことだ。
社員の言い分をよく聞いて、共感したうえで、自分の目指している会社経営をとつとつと伝えることだ。
社員が失敗した時、或いは、過ちを犯した時は、自分の責任として監督不足を詫び、一緒に成長することを約束することだ。
社員に対して頭ごなしに怒鳴る、或いは、自分の主張や根性論を押し付けるような真似は決してしないことだ。
根性論などかけらもない、丁寧なコミュニケーションを心掛けることが本来あるべきリーダーの姿であり、そうしたリーダーの姿勢に社員は自然と従うようになる。
社員をコントロールするのは偽物のリーダーだ。コントロールせずとも、社員を惹きつけるのが本物のリーダーである。
今はもう「怒鳴る・殴る・蹴る」の時代ではない。どちらかというと「共感する・励ます・育む」時代だ。
(この記事は2020年4月に執筆掲載しました)