失敗している社長ほど疑いの目を他者に向ける

 

権威の高い人間ほど、失敗や課題に直面した時に、疑いの目を他者に向けるものだ。

 

社員や顧客のせいにする社長、患者や病気のせいにする医師、秘書や国民のせいにする政治家など、疑いの目を他者に向けて責任逃れする権威者は典型だ。

 

今から300年ほど前に本当にあった話だ。

 

18世紀中頃、欧米で妊婦を襲う伝染病が流行した。

 

ある病院では妊婦の死亡率が70%に達する怖い伝染病だった。しかも、その状況は1世紀近く続く。

 

当時は、科学やデータで根拠を証明する時代で、伝統や神秘主義を捨てる時代だ。当然、医師の権威は、とても高い時代だった。

 

そんなある日、ひとりの医師が、多くの医師が手洗いと器具の消毒をしていない事実に気が付き、他の医師達に、こう指摘した。

 

「問題は患者や病気ではない、“あなた達、医師が問題だ”」と。

 

この指摘に医師たちは耳を貸さなかった。それどころか、指摘した医師を気違い扱いし、その後も手洗いを十分にしなかった。

 

それから30年後、手洗いと器具の消毒をするだけで、この病気が無くなると気付く者が現れるまで。

 

医師たちが手洗いと器具の消毒を始めると、この伝染病は消え去った…。

 

 

成功している社長ほど疑いの目を自分に向ける

 

自分の権威が高くなるほど、時には自分自身が問題になる、という非常に大切な視点を見落としがちになる。

 

調子に乗らない、知ったかぶりしない、相手の意見が正しいという前提を片時も忘れない。わたし自身、先生と呼ばれる機会が多いので、こうした気持ちを強く意識している。

 

本当に気をつけないと、どんな時も謙虚さを持ち続けないと、誰にでも起こり得ることだからだ。

 

自分に疑いの目を向けるだけで、誰かが幸せになるかも知れない、誰かを救えるかも知れない、あるいは、自分の誤りを正せるかも知れないと考えれば、案外、簡単に自分を疑うことができるものだ。

 

社会的ポジションが上がるほど、権威や権力が強まるほど、疑いの目を自分に向けることが難しくなるかも知れない。

 

それでも、自分を疑う努力は、必ず自分を救ってくれるし、他者を幸せにする。

 

すべてを知っている完璧な人間など、この世に存在しない。

 

映画俳優のチャールズ・チャップリンは「人間は常に未完成」と言い、実業家のウォルト・ディズニーは「ディズニーランドは永遠に未完成」と言った。

 

人間も会社も、完成したと思った瞬間に成長が止まる。

 

すべては途中経過、すべては成長の過程を生きているに過ぎないと思い込むことが、自分を疑う謙虚さを取り戻すきっかけとなり、ひいては成長の原動力になるのだ。

 

筆者プロフィール

ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」