事業撤退の判断基準とタイミング|リスク管理に用いる経営指標

事業撤退の判断基準とタイミング

 

事業撤退の基準を誤ると、会社が一気に衰退することがある。

 

事実、新規事業や多角化事業の大失敗の根本原因は、事業撤退基準の誤りにある。見切千両」という言葉がある通り、事業を見限る選別眼は中小企業経営者にとって欠かせない能力のひとつといえる。

 

この記事では、事業撤退の判断基準とタイミングについて、詳しく解説する。

 

 

事業撤退の大切なポイント

 

事業を見限るうえで大切なのは、事業撤退判断基準タイミングだ。

 

なぜなら、事業撤退の判断基準とタイミングを誤ると、会社の更なる成長の芽を潰す結果を招く可能性、或いは、会社全体が衰退の危機に陥る可能性が高まるからだ。

 

例えば、事業撤退の基準が曖昧だと、もう少し積極投資すれば事業が軌道に乗る、或いは、ここで撤退しなければ会社全体が衰退する、といった経営判断を正確に下すことができない。

 

これでは、事業の成長発展を円滑に推進することが困難であることは容易に想像ができるだろう。

 

つまり、事業撤退の判断基準とタイミングを誤ると、経営の失敗リスクが飛躍的に高まるのだ。

 

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事業撤退の判断基準に欠かせない要素

 

事業撤退の判断基準に欠かせない要素は、正確な損益集計になる。

 

なぜなら、既存事業と切り離した独立採算の損益集計をしなければ、新規事業や個別事業の正しい損益状況が不明瞭になるからだ。

 

当然ながら、正しい損益が分からなければ、その事業が儲かっているのか、或いは、損をしているのかの判断基準が曖昧になるので、成長投資、或いは、事業撤退の判断を正しく下すことが出来なくなる。

 

独立採算の損益集計なくして、確かな事業撤退基準を作ることはできない。

 

新規事業等の単体損益を明らかにする正確な損益集計が、確かな事業撤退基準のベースになるのだ。

 

 

事業撤退の判断基準となる損益集計の方法

 

中小企業が、新規事業、或いは、新店舗を出店した場合は、必ず独立採算の損益集計をしなければならないが、事業撤退の判断基準となる損益集計の方法等は、下記の通りである。

 

独立採算の損益集計表

売上

新規事業の売上のみを計上する

売上原価

新規事業の売上原価のみを計上する

売上総利益

新規事業の売上総利益を算定する

直接経費

新規事業に関わる直接経費のみを計上する

貢献利益

新規事業の貢献利益を算定する

本部経費

本部経費を一定比率に応じて配賦する

営業利益

新規事業の営業利益を算定する

 

独立採算の損益項目の解説

独立採算の各損益項目の解説と集計のポイントは下記の通りである。

 

売上

新規事業の商取引(経済活動)を通じて得られた収入のみを売上として計上する。本業や他事業の収入が混入しないように注意する。

 

売上原価

新規事業の商取引(経済活動)を通じて行った仕入(材料費、外注費等)のみを計上する。本業や他事業の仕入が混入しないように注意する。

 

売上総利益

新規事業の売上総利益を算定する。〔売上総利益=売上-売上原価〕

 

直接経費

新規事業の商取引(経済活動)を通じて支出した経費のみを計上する。本業や他事業の経費が混入しないように注意する。新規事業単体の正確な損益を集計するうえで最も大事なのは、この直接経費の集計である。責任者の人件費や家賃等の固定費、水道光熱費等の変動費まで、新規事業に関わっている全ての直接経費を集計する。

 

貢献利益

新規事業の貢献利益を算定する〔貢献利益=売上総利益-直接経費〕。この貢献利益は、会社全体への貢献度を示す利益である。つまり、貢献利益の黒字額が多ければ貢献度が高く、貢献利益が赤字(マイナス)であれば、会社の足を引っ張っている事業ということになる。

 

本部経費

新規事業へ配賦する本部経費である。本部経費とは、会社の管理部門(総務、経理、開発等)の経費のことである。一般的な配賦基準は、売上総利益(粗利)の構成比率に本部経費を乗じて配賦することが多い。

 

例えば、本部経費が100万円で、会社に5つの事業あった場合の配賦は下表の通りである。

A事業

B事業

C事業

D事業

E事業

粗利構成比率

10%

15%

20%

25%

30%

本部経費配賦

10万円

15万円

20万円

25万円

30万円

 

売上総利益の金額の構成比率が大きいということは、それだけ本部のサポートを受けて事業活動を行っているといえるので、売上総利益の構成比率を用いて本部経費を配賦する方法は公正かつ合理的な方法である。この他にも、社員人数の構成比率や、床面積の構成比率等を用いて本部経費を配賦する方法もある。

 

営業利益

新規事業の営業利益を算定する。〔営業利益=貢献利益-本部経費〕

 

 

新規事業の撤退基準とタイミング

 

新規事業等の単体損益が明らかになると、損益悪化の兆候を素早く捉えるができ、なお且つ、事業撤退基準も明快になるので、会社の衰退リスクが低下する。

 

中小企業の新規事業等の撤退基準とタイミングは下記の通りである。

 

事業の撤退基準とタイミング
貢献利益が黒字で営業利益が赤字

営業利益が赤字であっても、貢献利益が黒字であれば、撤退する必要はない。配賦された本部経費が負荷になっているが、単体事業としては貢献利益が黒字なので、経営改善次第で、営業利益の黒字化が見込める。

 

売上拡大、或いは、直接経費のコスト削減を図り、営業利益の黒字化が見込めるか否か検討して、黒字化の見込みがあれば、一層の経営改善を推し進める。逆に、営業利益黒字化の見込みがなく、何れ貢献利益が赤字になることが予想される場合は、撤退を検討した方がよい。

 

貢献利益が赤字

貢献利益が赤字であれば、撤退を検討する。但し、売上拡大や直接経費のコスト削減で貢献利益黒字化の見込みがあれば、事業撤退を保留し、経営改善を推し進める。既に、売上拡大やコスト削減の余地がない状況であれば、即時撤退を検討した方がよい。

 

貢献利益の赤字は、本業や他部門の利益を食いつぶしている経営状態を示す。当然ながら、貢献利益の赤字を放置するほど会社倒産のリスクは高まる。会社全体が赤字に転落する前に手を打つことが大切になる。

 

事業撤退基準を経営に活かすポイント

 

中小企業経営者が、事業撤退の判断基準とタイミングを誤らないためには、日ごろから正確な損益管理を行うことが大切だ。

 

また、会社全体の損益管理に限らず、部門別、更には商品別というように、事業を細分化して損益管理を行う仕組みを定着させることも重要だ。

 

そして、最も大切なのは「継続性をもって損益状況をモニタリングする」ことである。

 

長期的に事業活動の損益結果をモニタリングすると、その事業の将来性が自然と見えてくる。そして、事業の将来性が見えるほど、事業撤退の判断基準とタイミングの精度が上がる。

 

会社経営において継続することほど難しいものはないが、地道な努力ほど経営力を押し上げるものはない。

 

伊藤のワンポイント
 

事業撤退の判断が遅れたために会社経営が危機的状況に陥る例はじつに多いです。ですから、黒字経営の見込みがない事業であれば、迅速な撤退を検討すべきです。多少の損切りをしてでも一度撤退して体制を立て直せば、再挑戦の芽も残せますし、経営の安全性もキープできます。決断の先送りが命取りになることを忘れないでください。