中小企業の公平な役員報酬の決め方|報酬管理に用いる経営指標
中小企業は、会社のオーナー兼経営者であることが一般的だ。
会社のオーナーは、自身の役員報酬の金額を自由に決定することができる。
オーナー自身が株式を100%保有していれば、第三者に対して経営情報や経理帳簿の開示義務もないので、他人に詮索されることなく、際限なく役員報酬を引き上げることもできる。
一代限りの会社経営であれば問題ないが、会社を次世代へ引き継ぐことを意識している経営者であれば、経営の透明性と共に、自身の役員報酬の妥当性を検証することも大切だ。
また、社員に対して役員報酬の公平性を示すことが出来れば、社員の満足度と共に、経営者に対する信頼感も高まる。
この記事では、中小企業の公平な役員報酬の決め方から役員報酬の基本ルールに至るまで、詳しく解説する。
中小企業の公平な役員報酬の決め方とは?
中小企業の公平な役員報酬の決め方とは、どういった方法があるのだろうか?
おススメの方法は、役員と社員の報酬金額を公平に分配する計算方法に「付加価値配分比率」を活用する方法だ。
付加価値とは、社員と役員の報酬に充当できる原資のことで、総人件費+営業利益で金額を算出することができる。
この付加価値を原資として、社員と経営者の間で公平に分配することができれば、経営者と社員の間に公平な報酬決定の計算ルールを構築することができる。
付加価値配分比率を活用して役員報酬を決める場合は、まず最初に会社の付加価値金額を求める必要がある。付加価値の計算式は下記の通りである。
付加価値=総人件費+営業利益
※総人件費を集計する際は、役員報酬、給与、賞与、雑給、福利厚生、法定福利費、支払報酬、支払手数料(謝礼等)、等々、あらゆるヒトへの支払が対象になる
※付加価値に減価償却費を含める見解もあるが、減価償却費は分配可能な所得金額ではなく、再投資の原資である。従って、減価償却費を付加価値に算入することは適当ではないと考える
公平な役員報酬を決める具体的の計算方法(ケース1)
会社の付加価値を「付加価値分配比率」に応じて、公平な役員報酬を決める具体的計算方法を詳しく解説する。
例えば、下記のような損益比率の会社があったとする。
売上総利益 |
総人件費 |
その他経営費 |
営業利益 |
---|---|---|---|
100% |
40% |
50% |
10% |
この会社の付加価値は、総人件費40%+営業利益10%で、売上総利益の50%相当になる。
社員60% : 経営者40%
この適正基準を用いて付加価値の配分を計算すると、
社員 付加価値50%×60%=30%
経営者 付加価値50%×40%=20%
となり、会社の付加価値50%を、社員30%:経営者20%で分配することになる。
経営者の場合、さらに20%を役員報酬(10%)と会社利益(10%)に分配するので、経営者の最終的な役員報酬は、付加価値の10%が妥当かつ適正な金額ということになる。
例えば、付加価値が5億円であれば、5億円×10%で、経営者の役員報酬は5千万円、付加価値が10億円であれば、10億円×10%で、経営者の役員報酬は1億円になる。
公平な役員報酬を決める具体的の計算方法(ケース2)
公平な役員報酬を決める具体的計算方法を、別のケースで詳しく解説する。
じつは、この付加価値配分比率の適正基準は、会社の損益の内容と共に変化する。
例えば、人件費の割合が高い労働集約型の会社で、下表のような損益比率の会社があったとする。
売上総利益 |
人件費 |
その他経費 |
営業利益 |
---|---|---|---|
100% |
70% |
20% |
10% |
この会社の付加価値は、総人件費70%+営業利益10%=売上総利益の80%相当になる。
社員75% : 経営者25%
この適正基準を用いて付加価値の配分を計算すると、
社 員 付加価値80%×75%=60%
経営者 付加価値80%×25%=20%
となり、会社の付加価値80%を、社員60%:経営者20%で分配することになる。
経営者の場合、さらに20%を、役員報酬(10%)と会社利益(10%)に分配するので、経営者の最終的な役員報酬は、付加価値の10%が、妥当かつ適正な金額ということになる。
先の例と同じく、付加価値が5億円であれば、5億円×10%で、経営者の役員報酬は5千万円、付加価値が10億円であれば、10億円×10%で、経営者の役員報酬は1億円になる。
このように、付加価値配分比率を活用して役員報酬を計算すると、会社の付加価値の増減に関わらず、社員と経営者の間に公平な報酬分配の仕組みが作れる。
役員報酬決定の公平性と透明性を保つには、ベストの計算方法といえる。
計算上の注意点
この計算方法で算定した役員報酬金額は、経営者ひとりの役員報酬ではなく、取締役(経営陣)全員の役員報酬の総額を意味している。また、目標営業利益水準によって適正な付加価値分配比率が変わるので、その点、留意してほしい。
役員報酬の基準になる付加価値配分比率表
役員報酬の基準となる役員と社員の付加価値配分比率の適正表(目標営業利益=粗利高営業利益率10%)は以下の通りである。会社の労働分配率を求めると、役員と社員の適正な付加価値配分比率が分かる。
付加価値 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
---|---|---|---|---|---|
社員 |
75 |
71 |
67 |
60 |
50 |
役員 |
25 |
29 |
33 |
40 |
50 |
人的投下 |
労働集約型 |
準労働集約型 |
標準 |
標準 |
資本集約型 |
労働分配率 |
70% |
60% |
50% |
40% |
30% |
【関連記事】労働分配率の計算式と適正水準
役員報酬と社員給与の上限バランスは?
付加価値配分比率を活用した役員報酬の計算方法を紹介したが、役員報酬と社員給与の上限バランスについても解説する。
会社に大きな利益をもたらしたからといって、際限なく役員報酬の上限を引き上げても良いのかというと、答えは否である。
なぜなら、役員と社員の報酬格差が大きくなりすぎると、嫉妬や妬みなどの不平不満が蔓延し、経営者の求心力が著しく低下してしまうからだ。
一般的には、役員と社員の報酬格差が20倍を超えると、役員報酬に対する社員の不平不満が生じやすくなると云われている。
従って、役員報酬の上限は、社員の最低年収が250万円であれば、役員報酬(全役員の総額)5,000万円以下という金額が、上限バランスの適正ラインになる。
一方の社員給与は、年齢の20倍を上限にすると、報酬に対する満足感が最もピーク値に近づくと云われている。
従って、社員給与の上限は、社員の年齢が30歳であれば、年収600万円という金額が、上限バランスの適正ラインになる。
役員と社員の双方が満足のいく報酬を手にするには、一致団結して、報酬の源泉となる会社の付加価値を拡大することが大切だ。
【関連記事】会社の付加価値の計算方法と拡大方法
役員報酬の基本ルール
役員報酬は、税法によって定期同額支給と定められている。
従って、役員報酬の支払金額は事業年度の期中で変更することができない。
なぜなら、期中での変更を認めると恣意的な利益操作が出来てしまうからだ。
たとえ、期中で役員報酬の金額を増減変更したとしても、全て税法で否認(※1)されてしまうので、その増減分の役員報酬は経費で認められない。
また、役員報酬の支給金額の変更は予め株主総会の決議で決定する必要があり、支給金額の変更時期は事業年度開始、期首から3カ月以内である。
役員報酬の上限額は法的には定められていないが、明らかに不当に高額な役員報酬に関しては、税務署から否認されることがある。
※1 否認とは、費用として認められないということ。例えば、会社が100万円を経費計上していても税務署に否認されたら、100万円は経費にならず、利益、いわゆる所得としてみなされ、その所得に課税される。
役員報酬を何となく決めている中小企業は多く、月額百万円という役員報酬が相場的に一番多いです。実は、合理的計算ルールのない役員報酬が原因で、利益減少や社内不和に陥る会社は少なくありません。社員との人件費バランスの悪化や成長投資の鈍化を招くからです。私欲抑制のためにも、客観的基準を掲げてみてください。
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