
有能・無能の線引きを厳格に敷いて、
成績やスキルが芳しくない社員を定期的に入れ替えて会社の収益を追求する会社が稀にあるが、この手法は小さな会社ほど通用しなくなる。
日常的にかかる過度なプレッシャーで社員の心身が疲弊し、組織のパフォーマンスが低下するだけでなく、会社の採用コストが膨らみ続けるからだ。
小さな会社は、有能・無能ではなく、仕事の得手不得手に注目することが大切だ。
そもそも、有能な社員だけで組織を作ることはできない。
例えば、会社を創業し軌道に乗せた社長、あるいは、良い仕事を連発する有能な社員と比較すれば、どんな社員であっても無能になる。
名だたる大企業が採用時に有能だと思った社員が解雇や早期退職の対象になる事実を考えれば、有能な社員だけを採用し続けることも不可能だ。
有能な社員だけを追い求めるのは止めた方が良い。
有能・無能の線引きを取っ払い、社員一人ひとりの得手不得手に注目した方がよほど強い組織を作るのに役立つ。

有能・無能の基準を無くし、
社員の得手不得手に注目すれば、適材適所と育成フォローが充実する。
得意な分野がはっきりしている社員であれば、最初からその分野のスペシャリストとして育てる手もある。
好きこそものの上手なれということわざがあるように、誰しも好きな分野の仕事には高いモチベーションで向き合い、スピーディーに成長するものだ。
もちろん、社員が成長する上で、苦手な仕事を克服することは欠かせないが、時には切り替えも必要だ。
また、仕事の得手不得手には、社員の性格・特性・生き様などの人間性が如実に表れるが、そういう部分をお互いにリスペクトする文化も大切だ。
お互いの人間性を理解し、敬い、助け合う組織風土はとても強い。
豊かな知見や技能、優れた人間性を持った人財がどんどん生まれる土壌が整い、会社が成長し続けるからだ。
さらに、企業の組織風土は、会社の外からは見えず、模倣しようと思ってもできない唯一無二の強みになる。
当然、ライバルが真似できない強みが増えるほど、企業の永続性は高まる。
組織風土の強みは、社員が成長するほどに増幅する。
社員の才能は最大限活用され、組織全体のパフォーマンスも常に最適化される。
有能・無能の線引きを無くすために、仕事の本質を共有することも大切だ。
仕事の本質は、言うまでもなく、顧客のお役に立ち、対価を受け取ることだが、組織全体が仕事の本質を共有し、追求するほど、有能・無能の線引きは重要ではなくなる。
顧客に役立つことが組織全体のモチベーションの源泉になり、自然と顧客から末永く愛される会社になる。
皆さまもどうか、有能・無能にこだわらず、社員の長所に重きを置き、仕事の本質を追求する組織風土を確立して頂ければと思う。
(この記事は2023年9月に執筆掲載しました)
ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」