
動的平衡とは、
絶え間なく変化する状態でありながら、全体としては一定の状態を保つことを指す。
例えば、次の二つのエピソードは動的平衡の本質を表している。
「ギリシア神話に登場するアテナイの英雄テセウスの船がありました。この船を維持するために部品交換しながら修理を繰り返しているうちに、修理工はあることに気がつきました。船ができた当初あった部品がすべて入れ替わっている……」
「食べることの本質的意味を探求した生物学者のルドルフ・シェーンハイマーは、人間の体内で食べ物が分子レベルで新たに置き換わっている事実を突き止めました。どうやら、人間の身体は一年も経てば、脳も心臓も骨も一切の例外なく、分子レベルで新たに置き換わっている……」
すべての生命体は、生きるために変化し、流転している。
この仕組みを「動的平衡」と言い、この流れ自体が「生きている」ということになる。
言い換えれば、この流れが止まった瞬間に死が訪れる。
そしてこれは、会社経営も同じだ。
企業は、生きるために変化し、流転している。
社員、顧客、取引先、商品、設備、仕事、方針、戦略など、事業活動に関わるあらゆるものは変化し、流転する。
すべての企業は、生きるために無意識下で変化し、流転することで、動的平衡を保っている。
企業の永続性を高めるには、変化を恐れず、絶えず流転し、動的平衡を保ち続けるしかないのだ。

一時の安定に固執したり、変化を拒んだり、現状に甘んじたりすることは、動的平衡を崩す要因にしかならない。
どんなに会社が安泰だと思っても、変化と流転を止めないことだ。
規制緩和、技術革新、関税撤廃、補助金打ち切り、価値観の変化、テクノロジーの進化、海外勢やベンチャー企業の参入などをきっかけに、従来のビジネスが通用しなくなることは往々にある。
どんな状況下でも変えてやる、変えられると思い続けてほしい。
どうやって成長企業に変えるのか、どうやってオンリーワン企業に変えるのかを日々真剣に考えて、進んで変化を巻き起こしてほしい。
常に前向きに変化を楽しみ、流転していくことが、企業の永続性を高める唯一の方法だ。
変化と流転の取り組みは事業活動の最適化に繋がり、10年後、100年後の安定経営を確かなものにする。
未来を見通し、その未来に先手を打つ、
あるいは、理想の未来を掲げて、その未来を実現する一手をしっかり打てば、
経営環境が目まぐるしい状況下においても、変化と流転のスパイラルが回り続ける。
皆さまもどうか、どんな時も前向きに、ただただひたむきに、変化と流転の取り組みを続けて頂ければと思う。
(この記事は2023年9月に執筆掲載しました)
ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」