社長業の鉄則6|不遇の時代が繁栄の基礎を築く


哲学者のウイリアム・ジェームスは、水泳は冬の間に上達し、スケートは夏の間に上手になる、と語った。


会社経営も同じで、景気悪化や業績低迷などの不遇の時代に何をしたかで、成長期や好調期の成績が決まる。


不遇の時代に役立つ成功の知恵は沢山あるが、ひとつ抑えるとすると「損きり」のスキルだ。


不況時は損失拡大のスピードが加速し易いので、損きりのタイミングを誤ると、壊滅的な業績悪化に陥るからだ。


景気悪化や業績低迷時にもっとも注意すべき点は、損きりの対処になる。


経済環境が悪化すると、平常時よりも利益を出すことが難しくなる。赤字転落や損失拡大に陥り易いだけでなく、損失を穴埋めする余力も小さくなりがちだ。


こうした状況下で損失を出し続けるのは、衰退リスクを早めるだけだ。


損失を見つけたら、即刻、損失解消に向けた経営改善に着手し、一年以内に損失が解消できない場合は、事業撤退や商品終売などの損きりを決断した方が良い。


一年経過しても利益が出ないということは、やり方が間違っているか、商品化や事業化のタイミングが合っていない証拠だ。


一度、損きりして、時期を改めて再出発するのが賢明だ。


損きりの結果、会社の存続自体が危うくなるようなら、事業縮小を検討すれば良い。


具体的には、最少人数で現状の顧客サービスを維持する方法を早急に考える。拡大志向に欠けるが、たとえ僅かでも利益がプラスに転じれば、会社の存続が叶う。


損きりは最終手段と心得る


とはいえ、損きりは最終手段だ。


何よりも重要なことは、損きりの回避に全力を尽くすことだ。


企業努力が不足した結果、損きりに迫られるケースは意外と多い。


商品終売、事業撤退、あるいは、採算改善のための値上げを検討する前に、徹底したコスト削減、生産性改善、サービス改善、製造条件や納品条件の交渉、創意工夫や販売努力等、できることを徹底的にやり尽くすことが大切だ。


損きりを回避する努力は、会社全体の収益改善に役立つだけでなく、未来の経営基盤を確実に強化する。


また、事業活動の損失に敏感でいられるように、常日頃から計数管理と採算管理を徹底することも忘れないことだ。


数字の根拠があると、絶対の自信を持って損きりできるようになる。


また、損失が小さな内に対応できるので、業績悪化のリスクを払しょくできる。


皆さまもどうか、不遇の時代こそ、そのうち儲かるという盲信を捨てて、損きりをベストなタイミングで断行し、繁栄の基盤を盤石にして頂ければと思う。


(この記事は2023年9月に執筆掲載しました)


筆者プロフィール

ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長 伊藤敏克。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。会社経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・税法の専門知識を学び、2008年4月に会社を設立。一貫して中小・中堅企業の経営サポートに特化し、どんな経営環境であっても、より元気に、より逞しく、自立的に成長できる経営基盤の構築に全身全霊で取り組んでいる。経営者等への指導人数は延べ1万人以上。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」、「小さな会社のV字回復の教科書」