ホテル・旅館業に有効な経営指標|ホテル・旅館系経営者必見の業界指標

ホテル・旅館業に有効な経営指標

 

ホテル・旅館業は景気に左右されやすく、安定経営を実現するのが比較的難しい業種だ。

 

健全な会社経営、並びに、効率のよい現場運営を実現するためには、財務諸表の分析に加えてホテル・旅館業特有の指標を活用して、日頃から経営課題を抽出することが欠かせない。

 

この記事では、ホテル・旅館業の経営改善をすすめる上で役立つ業界特有の経営指標について、詳しく解説する。

 

 

ホテル・旅館業の経営改善に役立つ経営指標

 

経営改善を進めるうえで、最も即効性のある改善方法は、現場のムダムラの解消である。

 

現場のムダムラを見つけるには、財務諸表の分析だけでは不十分である。効率的に現場のムダムラを解消するには、ホテル・旅館業特有の経営指標を活用する必要がある。

 

以下に紹介するホテル・旅館業の経営改善に役立つ独自指標を活用(分析・目標等)すると、経営改善を効率的に進めることができる。

 

リピート率

リピート率とは、一定期間内に来店したお客様が再来店する割合のことである。ホテル・旅館業のリピート測定期間は一般的には1年に設定する。

 

リピート率の計算式は「(再来店者数÷総来店者数)×100」で、例えば、10名中、4名が1年以内に再来店した場合、(4÷10)×100=リピート率40%となる。

 

リピート率はホテル・旅館業にとって最も重要な経営指標といっても過言ではない。なぜなら、リピート率が高まり、固定客が増えるほど、ホテル・旅館業の経営が安定するからだ。

 

特定のホテル・旅館に宿泊する頻度が年に1回というお客様は珍しくない。従って、一期一会を大切に、一回の宿泊で如何に良い印象を残せるか否かが、リピート率を大きく左右する。サービス精神なくして、リピート率の向上はあり得ない。

 

顧客満足度

顧客満足度とは、顧客満足度を数値評価したデータである。顧客満足度は、リピート率に並んで、ホテル・旅館業の重要指標になる。

 

顧客満足度は、接客、食事、温泉、施設、売店、など等、宿泊施設の満足度を構成する主要素に対するアンケート調査を行うことで把握できる。

 

また、アンケート調査は五段階評価に加えて、必ずフリーハンドの自由記入欄を設けることが大切だ。五段階評価の真ん中以下、或いは、自由記入欄に不満足理由が記載してある場合は、二回目の宿泊利用は無いと思った方が良いだろう。

 

不満足評価は経営的にはマイナス要素ではあるが、満足評価に変えるための経営課題と捉えればプラスの側面もある。大切なのは、不満足評価を満足評価に変えるための経営努力をひたむきに継続することだ。顧客満足度が向上すれば、リピート率も自ずと向上する。

 

客室稼働率

客室稼働率とは、保有客室の宿泊稼働状況を示す経営指標である。例えば、客室が100室あって、宿泊稼働客室が90室であれば、(90÷100)×100=客室稼働率は90%になる。ビジネスホテル等、客室定員1~2名の客室を多く保有しているホテル・旅館業には、有効な経営指標になる。

 

定員稼働率

定員稼働率とは、客室総定員に占める宿泊客数の割合を示す経営指標である。例えば、客室総定員が100名で、宿泊客数が60名であれば、(60÷100)×100=定員稼働率は60%になる。

 

旅館等、客室定員が4~6名で、家族利用が多い宿泊施設は、客室稼働率ではなく、定員稼働率の方が有効な経営指標になる。例えば、客室定員4名の大部屋に1名で宿泊した場合と、定員一杯の4名で宿泊した場合を比べると、利益は後者の方が圧倒的に高くなる。このように、客室稼働率で見落とす収益性の測定が、定員稼働率の最大メリットになる。

 

定員稼働率を見落とすと赤字経営に転落するリスクが高まるので、定員数が多い客室を多く保有しているホテル・旅館業者は日頃から注視したい経営指標である。

 

客単価

客単価とは、1客あたりの売上のことである。例えば、全体の売上が月100万円で、月の宿泊客数が100名であれば、100万円÷100名=客単価は1万円になる。

 

客単価はホテル・旅館の性格(コンセプト・宿泊料金)を決める重要な指標でもある。例えば、高級路線であれば客単価を高めに設定する必要があるし、大衆路線であれば客単価を低めに抑える必要がある。

 

ホテル・旅館業の客単価は工夫次第でいかようにも上げることができる。経費を増やすことなく客単価を上げることができれば、会社の利益が増加し収益性が高まるので、客単価はホテル・旅館業の存続を左右する重要な指標といっても過言ではない。

 

なお、客単価は、顧客サービスの費用対効果を計る際、或いは、新規顧客獲得のための広告宣伝費の費用対効果を計る際の基準として有効活用できる。

 

宿泊客数

宿泊客数とは、宿泊利用したお客様の人数のことである。ホテル・旅館の宿泊売上は、宿泊客数×客単価で構成されるので、日頃から注視したい経営指標である。

 

宿泊売上を増やすには、宿泊客数か客単価の何れかを上げる努力が必要になる。宿泊客数を上げるにはサービス精神の高低がポイントになり、一期一会を大切に、良い印象を与えることができるか否かが分かれ道になる。

 

なお、宿泊客数を上げるには、広告宣伝等の投資コストがかかるが、一般的には、宿泊客数よりも客単価を上げる投資コストの方が安く済むので、工夫して取り組んでほしい。

 

一人当たり宿泊数

一人当たり宿泊数とは、宿泊利用者一人当たりの宿泊数のことである。例えば、ひと月の宿泊利用者数が100名で、同月の宿泊数が150泊であれば、150÷100=一人当たり宿泊数は1.5泊になる。

 

1泊利用者と3泊利用者では、施設内で使うお金の消費量に大きな差が生じる。一般的には、一人当たりの宿泊数が多いほど、顧客単価が高くなる。そして、日帰り客よりも宿泊客、同じ宿泊客でも、宿泊数が多いほど、顧客単価が高くなる。従って、1泊利用を2泊、3泊と、如何に一人当たりの宿泊数を長引かせることができるか否かが、顧客単価を高めるポイントになる。

 

宿泊比率

宿泊比率とは、来客者のうち、宿泊客と日帰り客の比率を示す経営指標で、主に、温泉やスパ施設があるホテル・旅館業で活用できる指標である。例えば、来客者が100名で、宿泊客が60名、日帰り客が40名であれば、(60÷100)×100=宿泊比率は60%になる。

 

宿泊比率が高いと宿泊客の割合が多く、宿泊比率が低いと日帰り客の割合の方が多い、ということになる。日帰りの温泉施設がある宿泊施設の場合、宿泊比率が分かると、費用対効果を考慮した、きめの細かい顧客サービスの検討が可能になる。

 

バックオーダー数

バックオーダー数とは、キャンセル待ちの件数のことである。例えば、ひと月にキャンセル待ちが10件あれば、バックオーダー数は10になる。バックオーダー数は人気のバロメーターでもある。当然ながら、バックオーダー数が多いほど、景気に左右されにくいホテル・旅館業の経営基盤が整う。

 

原価率

原価率とは、料理の売上に占める材料費の割合のことである。例えば、材料が250円で料理の売上が1,000円であれば、(250÷1,000)×100=原価率は25%になる。

 

一般的にビジネスホテルの朝食の原価率は20%以下、旅館の食事は25%以下が適正ラインになる。

 

原価率はメニュー構成全体で適正ラインの範囲内に収まっていれば問題ない。例えば、ホテル・旅館の集客力を高める目玉メニューは原価率を高めに、前菜やドリンク類は原価率を低めに、というようにメニュー構成全体で適正バランスをとる工夫が大切だ。

 

なお、原価率の計算は、歩留まり率(廃棄率)も加味しないと、正確な原価計算ができないので注意が必要だ。経営が悪化するホテル・旅館は、例外なく原価率の計算がいい加減である。

 

 

ホテル・旅館業の経営分析に役立つ経営指標

 

続いて、ホテル・旅館業の経営分析に役立つ経営指標を紹介する。

 

以下に紹介する経営指標は、ホテル・旅館業の経営分析に役立つので、手元に決算資料を用意して実際に分析することをお薦めする。

 

固定比率

固定比率とは、購入した固定資産が会社の自己資金でどの程度まかなわれているかを示す経営指標のことである。設備投資が多いホテル・旅館業は日ごろからモニタリングしておきたい経営指標である。詳しくはこちら>>

 

負債比率

負債比率は、返済義務のない自己資本と、返済義務のある負債である他人資本のバランスを明かにする経営指標である。負債比率が分かると、会社の返済余力や安全性を簡単に把握することができるので、設備投資が多いホテル・旅館業は日ごろからモニタリングしておきたい経営指標である。詳しくはこちら>>

 

労働分配率

労働分配率は、会社の分配可能な付加価値(売上総利益)が、どの程度労働の対価(人件費)に支払われているかを示す経営指標である。資本集約型のホテル・旅館業は労働分配率を低く抑えることが経営の正攻法なので、日頃からモニタリングしておきたい経営指標である。詳しくはこちら>>

 

投資回収期間

設備投資を成功に導くには、投資計画の妥当性を徹底的に検証し、なお且つ、投資した資金を一定の期間で回収することが欠かせない。ホテル・旅館業が投資回収期間の見通しを誤ると経営の失敗リスクが著しく高まるので、しっかり把握しておきたい経営指標である。詳しくはこちら>>

 

大型設備投資の判断基準とタイミング

ホテル・旅館業の大型設備投資の判断基準とタイミングは、何れも正しくないと失敗リスクが拭えない。例えば、投資資金が十分にあり、投資判断にゴーサインを出したとしても、投資のタイミングを誤っていれば、投資は失敗に終わる。(逆もまた然りである)。ホテル・旅館業の大型設備投資を成功させるには、然るべき投資基準と、ベストなタイミングを見計らう判断基準が欠かせないので、しっかり把握しておきたい経営指標である。詳しくはこちら>>

 

 

ホテル・旅館業の安定経営に役立つ経営指標

 

最後に、ホテル・旅館業の安定経営に役立つ経営指標を紹介する。

 

例えば、下記の経営指標は常時モニタリングしたい指標になる。

 

 

 

 

上記3つの経営指標の適正水準をクリアすることが、ホテル・旅館業の成長を実現する最低限の条件といっても過言ではない。(それぞれの経営指標をクリックすると計算方法と適正水準が分かる)

 

各経営指標が適正水準に達していないホテル・旅館業者は、早急な経営改善をおススメする。

 

 

ホテル・旅館業は経営の最高峰

 

ホテル・旅館業経営の最高峰だ。

 

なぜなら、ホテル・旅館業は単なる宿泊業に止まらず、観光業、レジャー業、飲食業、サービス業、小売業、製造業、不動産業など等、あらゆる産業の集合体だからだ。

 

例えば、ホテル・旅館業は大きな資本投資(土地建物・機械設備・什器備品等)のもとに成立しているので、資本集約型の産業といえるが、同じ資本集約型の製造業とは、求められる経営の質が全く違う。

 

資本効率の追求、労働生産性の向上、人財育成、ホスピタリティとサービスの追求、美食の追求、広告戦略、経営データの解析、経営データ検証と経営改善の推進、など等、ホテル・旅館業の経営者に求められる経営領域は、他の産業とは比にならないほど広範囲にわたる。

 

当然ながら、経営者の能力がどれか一つでも劣っていれば、その部分が衰退の原因になり、会社の成長が鈍化する。また、立地や客層、施設概要によって、成功の経営戦略がガラリと変わるものホテル・旅館業の特徴だ。

 

ホテル・旅館業が経営の最高峰と云われる所以はココにあり、資本に特化、或いは、運営に特化するホテル・旅館業の経営スタイルは賢い選択といえる。

 

伊藤のワンポイント
 

ホテル・旅館業は経営の最高峰です。経営者であれば、いつかは挑戦したいと思うのがこの業界です。それほどに、ホテル・旅館業の経営は難易度が高いです。とても繊細な経営判断が求められますので、他業種の経営者よりも経営の勉強をしなければなりませんし、相当な人間力も必要です。ですから、おざなりな経営は厳禁です。